花火句会①

9月テレ句会。全60句の揃い踏み。圧巻。通常句会の清記用紙一枚に5句の廻し読みと違って、全体の中での選句となります。よって前に戻ったり、後に行ったりとあれこれ思案。この句いいけど、まてよ、こっちの句の方がいいかなとか…。全句の中での評価ができる、これ、テレ句会の醍醐味でもあります。

 

経済活動重視の御旗の下、規制解除オンパレードの世の中ですが、はたしてどうなるのか。吉とでるか凶とでるか、誰にも分からない未知の領域。ただコロナ禍の淀んだ空気にはほとほと疲れました。願わくば吉とでてほしい。それだけです。

 

 

一席 

夜学子の教師に借りる煙草の火/仁誠

 

二席 

秋夕焼駅のベンチの忘れ傘/U太

 

三席 

岩肌を残して山の粧へり/藻六

 

 

今回の入点句(◎は特選句)

 

山口勝行

祠(ほこら)への径を狭めて乱れ萩

風止んでコスモスの色整ひぬ

大稲架(おおはざ)の消えし尾張野寂しめる

愛犬も近道が好き草虱(くさじらみ)

 

河村仁誠

夜学子の教師に借りる煙草の火

城跡にどこか馬車めく捨て南瓜

野放図にわがもの顔に葛の蔓

 

中谷U太

秋夕焼駅のベンチの忘れ傘

秋刀魚秋刀魚秋刀魚三匹焼きにけり

曼珠沙華裾に咲かせし演歌歌手

 

原藻六

岩肌を残して山の粧へり

コロナ禍の踊り会場蝉時雨

なんとなく流れているよ鰯雲

宿敵も盟友となる濁り酒

蔵出しの七輪で焼く初秋刀魚

 

高津按庵

稲妻やペタル踏む足空回り

 

御酒一筋

厖大な不安抱えて葛の海

ばあちゃんがよしと言うまで胡桃摺る

台風やあたりの雑木大笑い

 

加藤小麦

虫の音を連れて夜勤の子の帰る

はらわたの苦味と甘味秋刀魚食ぶ

キャンセルの知らせを聞くや秋刀魚焼く

幕あいや女将せわしく秋扇

 

山田夏子

見回りの看護師も去り長き夜

秋茜散りて夕日を追いかける

 

梶原信史

寝袋に零時を刻む天の川

七輪の煙纏わせ初秋刀魚

空白むほどに文読む夜長かな

 

深井沓九郎

十階に暮らし忘れし虫の声

秋行くやマネキンの服様変わり

 

上田三枝

通学路マスクの中も初秋かな

夕景の滑走路舞う赤とんぼ

 

仲野カモメ

不漁とて銀鱗冴えし秋刀魚かな

 

 

山口勝行選評

 

〈最優秀句〉

見回りの看護師も去り長き夜/夏子

「おやすみなさい」の看護師の明るい声も
慈身にとっては虚しく渦まく煩悩に苦しむ夜長でもある。

 

〈入点句〉

空白むほどに文読む夜長かな/信史

積ん読の嵩がいよいよ低くなる。

寝袋に零時を刻む天の川/信史

真夜の中天に見る天の川、寝袋の俺ってこんなに小さい。

七輪の煙纏わせ初秋刀魚/信史

炭火で焼くことの味と情緒に心昂る。

宿敵も盟友となる濁り酒/藻六

濁り酒は良き中和剤。

蔵出しの七輪で焼く初秋刀魚/藻六

七輪のこだわりが秋刀魚の味を倍加する。

岩肌を残して山の粧へり/藻六

岩肌も紅葉を引き立てるアクセント。

秋行くやマネキンの服様変わり/沓九郎

マネキンが街頭の季節の変わり目を告げる。

十階に暮らし忘れし虫の声/沓九郎

便利さと遠望の楽しみに対する地面への情趣との比較。

夜学子の教師に借りる煙草の火/仁誠

教師と年の差も少ないかも知れぬ生徒との一服。

夕景の滑走路舞う赤とんぼ/三枝

赤とんぼと共に離陸を見送る。

 

〈添削句〉

あの時が人生の岐路曼珠沙華/沓九郎

決意せし日の懐かしき曼珠沙華

夜長てふ巡る思いの多かりき/カモメ

巡り来る思いの多き夜長かな

はらわたの苦味と甘味秋刀魚食ぶ/小麦

初秋刀魚わたの苦みを堪能す

秋刀魚秋刀魚秋刀魚三匹焼きにけり/U太

独り居に二匹の秋刀魚焼きにけり

道の駅籠いっぱいの梨の山/三枝

梨どころ籠売りされて道の駅

 

 

句会を終えてひと言

 

(藻六)

兼題は秋刀魚。そこで電子辞書で現代俳句の秋刀魚の項を引いてみたら、平野稔子という人の句で「人の死はすぐに忘れて秋刀魚焼く」。多分この句、人の死=非日常、秋刀魚=日常の構図(?)なんだと思う。しかしこの秋刀魚、今や高嶺の花ならぬ高値の花。日常とはほど遠い。わが家の食卓にはまだ一度も姿を見せていません。よってわての「蔵出しの七輪で焼く初秋刀魚」は2年前の句です。スンマセン。お願いですから秋刀魚さ~ん、カムバックゥ~! その時は七輪を引っ張り出し、丁寧に焼かせていただきます。どうかサンマ好きのわてを見捨てないでくだされ。今回の選句、好みの句が多く、迷いに迷いました。しかし決めなければなりません。最初に選んだ10句を無理矢理5句に絞り、その内の一句に◎。一筋の「厖大な不安抱えて葛の海」。葛の海という表現、このコロナ禍の底知れぬ不安感にピッタリと思いやした。選句して事務局に送った直後、按庵からTEL。「何、選んだ?」「これ、これの5句。◎はこれ、お前は?」「これとこれとこれの5句、特選はこれ」、結果判ったことは、わては按庵の句、按庵はわての句、一つも選んでいないということ。「アンタとは絶交だ!」「上等じゃないか、わての方こそ御免だ!」でプチ~ッでした。

特選

厖大な不安抱えて葛の海/一筋

入選

台風やあたりの雑木大笑い/一筋

通学路マスクの中も初秋かな/三枝

見回りの看護師も去り長き夜/夏子

十階に暮らし忘れし虫の声/沓九郎

 

(仁誠)

特選

大稲架(おおはざ)の消えし尾張野寂しめる/山口勝行

入選

祠(ほこら)への径を狭めて乱れ萩/山口勝行

風止んでコスモスの色整ひぬ/山口勝行

稲妻やペタル踏む足空回り/按庵

虫の音を連れて夜勤の子の帰る/小麦

今月の特選句

大稲架(おおはざ)の消えし尾張野寂しめる/山口勝行

 小学生の頃は学校の行き帰りに稲架は必ず見れたものです。句のような大稲架だったかどうかの記憶は定かでないが小学生の体から見ればそれなりに大きかったと思う。ところがこの十年以上前から、近隣を見ても全く稲架そのものがなくなってしまった。

大型コンバインの登場で刈り取ったら稲穂だけを集め藁は裁断して田んぼに残す、何とも味気ない収穫風景に様変わりしたためである。改めて我が町尾張野は太陽光発電も増え寂しい限りである。

今月の自信句

夜学子の教師に借りる煙草の火

 母校津島高校には定時制の夜間部があり教師より年長の生徒も散見された。今では全くの悪者である煙草だが、当時は生徒にも教師にも愛煙者が多く授業後はそんな年長の生徒が教師に煙草の火を借りる光景も不思議ではなかった。ふとそんな光景が頭に浮かびこの句ができた。

 

(按庵)

風止んでコスモスの色整ひぬ/山口勝行

祠への径を狭めて乱れ萩/山口勝行

秋夕焼駅のベンチの忘れ傘/U太

ばあちゃんがよしと言うまで胡桃摺る/一筋

キャンセルの知らせを聞くや秋刀魚焼く/小麦

特選句

風止んでコスモスの色整ひぬ/山口勝行

台風もあり突風のある日が続きましたが、風が収まり秋らしい景色が拡がる、そういう映像が良いです。

あまりの暑さに、ひきこもりがちの今日ですが、素直にそれを詠むか、無理に秋を感じるかは?

自信句はありませんが

稲妻やペタル踏む足空回り

歳時記を見ると雷は夏で稲妻は秋だ、不思議だと思っていたとき空が光った。三歳の孫が大事な二輪車をはなさず全力で家へ帰ろうという姿を想像しました。

 

(沓九郎)

<特選句とした理由>

夜学子の教師に借りる煙草の火/仁誠

ありがちな発想かもしれませんが、昭和の時代の微笑ましい感じがいいと思いました。

生徒も教師もどんな人なのだろうと想像が膨らみます。

そういえば新総理も夜学子でしたね。

祠(ほこら)への径を狭めて乱れ萩/山口勝行

風止んでコスモスの色整ひぬ/山口勝行

見回りの看護師も去り長き夜/夏子

秋茜散りて夕日を追いかける/夏子

<今回の自信句>

秋行くやマネキンの服様変わり

考えてみれば都会生活をしている者にとって季節の移ろいを最初に感じるのはマネキンの衣替えかなと思ってこの句を作りました。

最近はドンドン早くなってまだくそ暑いのに冬の服を着てたりしてますね。

俳句も敵わない季節の先取りです。

<感想>

仕事が終わったら真っ直ぐ家に帰ることが増えたコロナライフにも慣れました。

落ち着いた生活という感じでこれはこれで良いのかも。

この機会に何か変わろうと思ってダイエットにチャレンジしています。

来月の句会で会ったときに「誰?」って訊かないでよ。

 

(一筋)

●なみせん

はらわたの苦味と甘味秋刀魚食ぶ/小麦

なんとなく流れているよ鰯雲/藻六

風止んでコスモスの色整ひぬ/山口勝行

曼珠沙華裾に咲かせし演歌歌手/U太

●特選

城跡にどこか馬車めく捨て南瓜/仁誠

●理由:城跡とくれば「荒城の月」じゃないけど日本の城。馬車といへばシンデレラの南瓜馬車。そんな常識に縛られていませんかみなさん!と呼びかけた上で、捨てゼリフならぬ捨て南瓜とは…怖い蟹…。あ、ちゃったー、こは如何に?です。

●自信句

台風やあたりの雑木大笑い

 

(カモメ)

特選句

コロナ禍の踊り会場蝉時雨/藻六

新型コロナウィルスによる世の閉塞感に辟易している。

対応について矛盾も感じる。即ち例年のインフルエンザによる死亡者が多いにも拘わらずほぼ放置といってよい。

しかし、今回の国・地方自治体の対策は如何?

前置き不要。

本来であれば蝉時雨もかき消されるほどの騒々しさと熱気がそこにはあったであろう。

祭りの後の感覚が祭りの前、最中に呈されおり虚無感溢れる句。

岩肌を残して山の粧へり/藻六

夜学子の教師に借りる煙草の火/仁誠

稲妻やペタル踏む足空回り/按庵

祠(ほこら)への径を狭めて乱れ萩/山口勝行

自信句

風の色喧(かまびす)し世を窘めり

 

(小麦)

●特選句

秋刀魚秋刀魚秋刀魚三匹焼きにけり/U太

●並選句

祠(ほこら)への径を狭めて乱れ萩/山口勝行

愛犬も近道が好き草虱(くさじらみ)/山口勝行

風止んでコスモスの色整ひぬ/山口勝行

寝袋に零時を刻む天の川/信史

●特選にした理由

我が家なんぞは、秋刀魚一匹を二つに切って、ちまちま焼いて、いただいておりますもので、秋刀魚を三匹、いっぺんに焼く・・・ダイナミックでいいなあと思いました。しかも、「秋刀魚秋刀魚秋刀魚」と三回唱えながら焼くわけですね。数多ある秋刀魚の句の中で、この句が一番インパクトがありました。

●自信句

夕飯は秋刀魚と決めて起きる朝

朝、目が覚めるやいなや、「今日のお夕飯は、なににしよう」と考えるときって、ありませんか。

「よしっ、秋刀魚にしよう」となれば、勢いよく寝床から離れることができそう。

秋刀魚って、やっぱり、秋の味覚の王様ですね。

●感想

急に秋めいて、過ごしやすくなったのか、みなさまの句にゆったりとした余裕を感じました。

わたくしもこの佳き季節を、しっかり楽しみたいと思いますが、

バタバタとやってるうちに、すぐにさっぶい季節がやってくるのでしょうね。

 

(三枝)

選句

稲妻やペタル踏む足空回り/按庵

秋夕焼駅のベンチの忘れ傘/U太

曼珠沙華裾に咲かせし演歌歌手/U太

祠(ほこら)への径を狭めて乱れ萩/山口勝行

七輪の煙纏わせ初秋刀魚/信史

特選

稲妻やペダル踏む足空回り/按庵

特選の理由

雷がなり慌ててペダルを踏むが慌ててるので上手く踏めなくて空回りしてしまった。ペダルで自転車に乗っているのがわかるし稲妻でびっくりりしたり空回りで慌てた様子が上手く表現しているなと思いました。

自信句

通学路マスクの中も初秋かな

まだまだ昼間は暑い日が続きますが、朝晩はだいぶ涼しくなってきました。マスクも付けての生活が続きますが、季節は過ぎてゆく過ぎていっていると感じた句です。

感想

いい句がいっぱいで選句に迷いました。自分が俳句を作るのは苦手で大変ですが、皆さんの俳句を読んだり選句するのは、とっても楽しいし勉強になります。季節を感じられる俳句を楽しみたいですが・・・作るのは難しい・・・

 

(信史)

「五句選」

野放図にわがもの顔に葛の蔓/仁誠

夜学子の教師に借りる煙草の火/仁誠

大稲架(おおはざ)の消えし尾張野寂しめる/山口勝行

幕あいや女将せわしく秋扇/小麦

岩肌を残して山の粧へり/藻六

「特選句」

野放図にわがもの顔に葛の蔓/仁誠

つい最近私事で二週間ほど家を留守にした。庭の草取りや、剪定を事前に済ませて留守にしたものの、帰宅後の狭庭は雑草が伸び放題であった。中でも蔓植物が家壁や灯籠にまで進出しずうずうしい態度は際限がない。まさしく「野放図にわがもの顔に」振る舞っているのである。

ところで、掲句「葛の蔓」からは葛切り、葛餅を思い出し迷惑な蔓の印象はすっかり消え失せていた。他に絡みつくツル性植物に、作者もほとほと困惑しているのであろうが、反面、敢えて「葛の蔓」に絞ることによって、葛の得難くも透明感のある、その貴重性を詠まれたのではないかと拝察した。

私は黒蜜にきな粉をかけた葛餅がこの時期の好物なのである。

「自信句」

湯上りの髪に夜風や秋涼し

猛暑日と熱帯夜が続いた今夏、ぼうっとしていた頭がここ数日の朝夕の涼しさに幾分はっきりとしてきた。風呂に浸かっていたそんなある晩、庭の虫が鳴き始め、「あー、やっと秋か」と、この夏から抜け出したことを感じさせてくれた。

 多分、コオロギであろう、湯上りに灯籠の辺りをさがすが途端にピタリと止んでしまう。その場に立ち続け虫の音を待っていると、夜風が顔を横切った。風呂上がりの秋の涼しさを虫が連れてきてくれたと思った。

 

(夏子)

愛犬も近道が好き草虱(くさじらみ)/山口勝行

祠(ほこら)への径を狭めて乱れ萩/山口勝行

不漁とて銀鱗冴えし秋刀魚かな/カモメ

秋夕焼駅のベンチの忘れ傘/U太

寝袋に零時を刻む天の川/信史

《特選句》

愛犬も近道が好き草虱(くさじらみ)/山口勝行

今回は素敵な句がたくさんあり、5つに絞るのにとても苦労しましたが、何気ない日常のひとコマを微笑ましく詠んでいるこの句を特選句に選びました。

《自信句》

今回もまた締切りを過ぎた深夜1時過ぎに慌てて投句したので、自信句は本当にありません。いつも余裕をもって作句しなければとわかっているのですが、相変わらず学習能力ゼロです(^_^;)ちなみに「廬山寺に式部ゆかりの桔梗咲く」は、無理やり母にお願いして一句作って貰ったものです。せめて一票でも入ったら喜ぶと思うのですが(笑)

 

 

伝言板


①先般お願いした区民文芸展、10人より20句の提出がありました。有難うございました。今年は新型コロナの影響で、区役所での展示は中止、区民文芸集の発行のみとなります。ご了承ください。

 

②花火句会、これからの兼題

10月  団栗

11月(テレ句会)  落葉

12月  年の市

 

 

句会の予定


【日時】 2020年10月10日(第2土曜日) 18:00~

【会場】 名古屋市短歌会館「2階集会室」

【兼題】 『団栗』を含む当季雑詠5句

 

会場が変更となっています。ご注意ください。

〔名古屋市短歌会館〕

地下鉄伏見駅下車東E出口徒歩10m

錦通沿い、「瀧定」のとなりです。

 

投句の方は句会の前日(10月9日)までに事務局までお送りください。