6月も『テレ句会』、いつまで続くぬかるみぞ!
人間とコロナの戦い。敵は断固殲滅するぞの主戦論もあれば、共存、ウイズコロナなんぞの休戦論、共存論もあり、世の中実に喧しい。どっちにしても少しも先が見えない、そこが問題です。
先日も、6月16日、市内の某会館を訪ねたところ、そこで定期的に催されていた各種の行事、短歌・俳句の会、生け花・音楽・踊りなどの会、講演会、学習会・勉強会などなど、三月から中止が相次ぎ、今ではほぼ100%キャンセルとか。その会館では、コロナ禍による休会・中止については当日であってもキャンセル料不要としているため、ここ4ヶ月程は収入ナシ。係員の人は溜息をついていました。
で花火句会もテレ句会に。4月に次いで2回目、これもやむなし。いえ確かに、強行する手もあるにはありました。部屋の換気に注意を払い、お互いにゆったりと距離をとって(その会館では20人用の部屋も10人使用になっていました)、できればフェイスシールド、最低でも全員がマスクをして、大声厳禁、茶菓も大皿大瓶は避け、回し飲みはもちろんノー。あれダメ、これダメで面倒臭い。結局諦めました。こちらも溜息です。
その6月テレ句会、会員の皆さんから計50句が送られてきました。4月の時とは10句少なかったけど、まぁまぁ順調。句づくりにもなかなか集中できないこの状況下、皆さんのご協力に感謝です。コロナに敗けてあえなく解散ではいかにも格好悪い。今にも消えそう、風前のともしび状態の花火句会のささやかな灯を消さぬため、今後ともよろしくお願いします。
一席(11点)
難題を一つ免れ冷奴/信史
二席(8点)
一鳴きで夏鶯の森となる/U太
魂の成分は水なめくじり/小麦
隣人と十薬はさみ立ち話/仁誠
今月の入点句(◎は特選句)
山口勝行
この引きは黒鯛(チヌ)に間違ひなかりけり
三枚に下ろせし鮎の美しき
梶原信史
難題を一つ免れ冷奴◎◎
訪ふ人に門開け放ち杜若
独り居に三合炊きの豆ごはん
コーヒーと将棋アプリで足る端居
蛍火や沖へ波打つ千枚田
中谷U太
一鳴きで夏鶯の森となる◎◎◎
背を割りてすぐには飛ばず兜虫
風の野や風吹くまゝに杜若
加藤小麦
魂の成分は水なめくじり
大木の木肌黒々梅雨深し◎
飽きさせぬ色古代より杜若
旅人の足止めさせる杜若
河村仁誠
隣人と十薬はさみ立ち話
使者となる蛇神木の穴を出づ
手のひらに針を揉みだす新茶かな
花嫁舟過ぎて揺れ止み杜若
原藻六
父母の一つ老いたる帰省かな◎
衿正し蒼穹に立つ青嶺(あおね)かな◎
身ひとつを納め切つたる夏衣
激走の跡鎮めやる撒水車
御酒一筋
日めくりの文字読みがたく梅雨に入る
手のひらに蚊を打つ音の残りけり◎
足の指蝿がくすぐる昼下がり
深井沓九郎
百日紅の散るまでもたぬ誓いなり◎
黒南風に急かされ帰る漁り船
遠目には蝶舞うごとし杜若
高津按庵
雨の音紫陽花の青濃くなりて
紫陽花や横綱の碑も雨に濡れ
仲野カモメ
屏風絵を洋間で愛でる杜若
山口勝行選評
〈最優秀句〉
一鳴きで夏鶯の森となる/U太
夏鶯(老鶯)の声は完成されており、その掛合いを演ずる森の深さを詠み込んだ佳句。
〈入点句〉
訪ふ人に門開け放ち杜若/信史
一人でも多くの人に見てほしい美しさ
独り居に三合炊きの豆ごはん/信史
季節を味わうささやかな喜び
蛍火や沖へ波打つ千枚田/信史
青田へと育った棚田に舞う鶯
飽きさせぬ色古代より杜若/小麦
自然の偉大さに畏敬の念しきり
大木の木肌黒々梅雨深し/小麦
長梅雨のしっかり浸み込んだ巨木
旅人の足止めさせる杜若/小麦
業平の旅姿に思いが及ぶ
花嫁舟過ぎて揺れ止み杜若/仁誠
ゆくりなく出くわした情景の感動
使者となる蛇神木の穴を出づ/仁誠
神の使いの蛇の神秘(三月季)
隣人と十薬はさみ立ち話/仁誠
漢方の薬効に話しが弾む
黒南風に急かされ帰る漁り船/沓九郎
梅雨最中の必死の漁
遠目には蝶舞うごとし杜若/沓九郎
杜若を蝶に見立てた作者のセンス
紫陽花や横綱の碑も雨に濡れ/按庵
紫陽花も碑も雨に映えかえって美しい
手のひらに蚊を打つ音の残りけり/一筋
打ち損じた蚊に送る苦笑い
〈添削句〉
(原句)父母の一つ老いたる帰省かな/藻六
(添削)老父母の行く末案じゐる帰省
(原句)洗濯機色物分けよと小言受く/カモメ
(添削)夜濯や色物分けよと小言受く ※原句は無季
(原句)六月や厄除け祈願の花火かな/按庵
(添削)疫病の平癒祈願の花火かな ※原句は「六月」「花火」の季重なり
(原句)裸の子母があと追ふ夕薄暑/仁誠
(添削)裸子のあと追ふ母や夕間暮れ ※「裸の子」「夕薄暑」の季重なり
(原句)思ひ出を追ひかけてくる夏燕/U太
(添削)思い出を辿り今年も燕来る ※「燕来る」(春季)を用いる
(原句)衿正し蒼穹に立つ青嶺かな/藻六
(添削)蒼天へ屹したる青嶺かな
句会を終えてひと言
(藻六)
そうなんであります。酒を断つ、競馬をやめる、掃除をする、1日に最低5000歩は歩くなどなど、いろいろ誓うんであります。その時はマジもマジ、一点の曇りもありません。けど100日と守ったことなし。沓九郎の「百日紅の散るまでもたぬ誓いなり」に◎を打ちやした。ヨッご同輩! と肩をたたきたいけど、テレ句会ではそうもいきません。
杜若(かきつばた)といえば例の「いずれあやめかかきつばた」、いってみれば美女の象徴ですよね。となれば、会うのは楽しいけど別れるのはつらい。しかしこの世の中、会うは別れの始め、別離は必ずやってきます。鶴舞公園のかきつばたさんとも、別れの時はきます。そこでわての「うしろ髪引かるる思ひかきつばた」、情感あふれる、いい句だなぁ。ウン、「あんたは丸ハゲ、うしろ髪な~し!」だって。シバクぞっ!
自粛生活にはホトホト疲れました。あれするな、これしろ、これ守れのオンパレード。もうやってられません。誰れぞ助けてぇ~。
(仁誠)
入選
一鳴きで夏鶯の森となる/U太
魂の成分は水なめくじり/小麦
背を割りてすぐには飛ばず兜虫/U太
難題を一つ免れ冷奴/信史
この引きは黒鯛に間違ひなかりけり/山口
特選句
一鳴きで夏鶯の森となる/U太
夏は鶯の繁殖期で、巣作りのために山の中に入るため鳴き声は高原や山で聞くことが多い。
鶯は雄だけが鳴き、春の笹鳴きに始まり夏に至るころには見事な鳴きっぷりになっている。
その鶯が一鳴きしただけで鶯の森になったと錯覚するくらいひときわ大きな鳴き声だったのだろう。
きっと複数の雌鶯がきたことだろう、緑濃い森でなく鶯の生命力が伝わってくる句です。
自信句
「手のひらに針を揉みだす新茶かな」
バスツアーで静岡に出かけた折、製茶工場の見学ルートに製茶体験があった。仕上げ工程の体験であったが、兎に角繰り返し繰り返し掌で揉み続けると茶葉は限りなく細くなりまさに針そのものに仕上がった。
その感動がこの句になったが上手く伝われば幸いである。
(沓九郎)
<選句>
花嫁舟過ぎて揺れ止み杜若/仁誠
雨の音紫陽花の青濃くなりて/按庵
父母の一つ老いたる帰省かな/藻六(特選)
大木の木肌黒々梅雨深し/小麦
激走の跡鎮めやる散水車/藻六
<特選句とした理由>
父母の一つ老いたる帰省かな/藻六
一年経てば誰でも一つ年を取る。当たり前のことなんだけど自分も親も若い時は気にもしなかった。老人にとっての一年は大きい。今年はどんな様子で迎えてくれるのだろう。
句の体裁は事実を淡々と述べただけだが、その背後には作者の老親を思う温かい心が見え隠れしている。
<今回の自信句>
洗いたる夏シャツすぐに干からびぬ
夏の強い日差しの下に気に入りの薄手のシャツを干す。あっという間にカラカラに乾くその爽快感。わかるかなぁ、わからねぇだろうなあ。(懐かしのフレーズ)
<その他>
自分は持久戦は苦手。したがってコロナ自粛ももうたくさん。経済回復のためとか言いながら、外食、飲み会、ゴルフ、麻雀ともう完全に元の生活に戻っています。
ただし、手洗いとマスクは忘れずに。これが正解と思っています。
(一筋)
選句
●魂の成分は水なめくじり/小麦
●背を割りてすぐには飛ばず兜虫/U太
●難題を一つ免れ冷奴/信史
●隣人と十薬はさみ立ち話/仁誠
◎大木の木肌黒々梅雨深し/小麦
特選
大木の木肌黒々梅雨深し/小麦
梅雨の暗がりの中に大木のくろぐろとした木肌。作者は息をひそめて静かに大木を仰ぐ。一千年前の郷愁もかくありや
自信句
足の指蝿がくすぐる昼下がり
(按庵)
5句選
〇一鳴きで夏鶯の森となる/U太
〇訪ふ人に門開け放ち杜若/信史
〇日めくりの文字読みがたく梅雨に入る/一筋
〇足の指蝿がくすぐる昼下がり/一筋
◎難題を一つ免れ冷奴/信史
特選
難題を一つ免れ冷奴/信史
コロナ禍といきなり暑くなって、熱中症気味、さわやかさとは無縁な近頃。
作者にも何か重荷になることがあったご様子。だが、ビールを飲みながら、冷奴……ちょっとだけホッとする様子。
そうした情景がうかび、親近感を持ちました。
私の自信句という程ではありませんが、
雨の音紫陽花の青濃くなりて
勤務先(稲沢市)の近くに性海寺という寺があります(通称:あじさい寺)。今年は“あじさい祭り”は中止ですが、勿論、あじさいは一杯咲いていて、結構人々は訪れているらしい。
6月11日、この日はかなり強い雨降りでしたが、ちょっと寄ってみました。さすがに、この雨の中、もの好きな人は数人ではありましたが……(1人ではなかった!)
(私にとって、あじさいは額あじさいではなく、濃い目の青がいいと思っていたので)
強い雨の音のする中、あじさいらしい濃い青がさらに濃くなったような気がしました。ただそれだけの句です。
(カモメ)
入点句
魂の成分は水なめくじり/小麦
黒南風に急かされ帰る漁り船/沓九郎
独り居に三合炊きの豆ごはん/信史
父母の一つ老いたる帰省かな/藻六
特選句
衿正し蒼穹に立つ青嶺(あおね)かな/藻六
ただただ目の前に広がる青さの中に動じることなく坐す峰々。
近頃の恐れに震える人間を窘めている気がした
自信句
今回ありません。
皆さんに随分お目にかかっておりませんがご機嫌いかがでございましょうか。
自分の外側の世界はコロナ禍の閉塞感一色。
自分の内側だけは生命を漲らせておきたいと思うこの頃です。
(U太)
【選句五句】
手のひらに蚊を打つ音の残りけり/一筋(特選)
魂の成分は水なめくじり/小麦
独り居に三合炊きの豆ごはん/信史
隣人と十薬はさみ立ち話/仁誠
三枚に下ろせし鮎の美しさ/山口
【特選とした理由】
手のひらに蚊を打つ音の残りけり/一筋
何も考えず蚊を打ってしまった後で感じた小さな後悔がさりげなく詠まれています。
この夏、蚊を追うたびに思い出しそうな印象的な佳句です。
【今回の自信作】
特にありません。
【その他の感想】
特選に選ばせていただいた作品の他では、「魂の成分は水なめくじり」に惹かれました。
いずれの句も小さな生き物を詠みながら、深い生命観の本質に迫っているように感じました。
(小麦)
【厳選5句】
日めくりの文字読みがたく梅雨に入る/一筋
使者となる蛇神木の穴を出づ/仁誠
風の野や風吹くまゝに杜若/U太
手のひらに針を揉みだす新茶かな/仁誠
【特選】
難題を一つ免れ冷奴/信史
●理由
考えると落ち込みそうな問題が、どういうわけか、解決しまして、ああ、やれやれ。
よっしゃ、ビールでも飲んで、自分にお疲れさーんと言おう。
えっと、つまみはなんか、なかったかな。あ、そうだ、消費期限ぎりぎりの豆腐が半丁、冷蔵庫にあったな。食べよっと。
てな感じで、ささやかに一人お疲れ会をやっている景が浮かび、共感を呼びますね。
マグロの刺身とか、焼肉とかでは、あかんです。冷奴という季語が良きかな良きかな。
●自信句
魂の成分は水なめくじり
なめくじの成分は、90%が水だそうです。だからあの体の中心にある魂も、ほとんどが水でできてるんだなと思いまして。
人には嫌われているなめくじだけど、どこをどうとっても、水でできているなめくじは、実は清らかな存在なのですね。
●感想
いつの間にか夏ですね。
みなさんの句を拝読し、お元気そうなお顔が浮かんできて、なんともうれしい気持ちになりました。
コロナのやつらも、とりあえず休みってところでしょうか。
大変な時代の中にあって、淡々とした句が多くて、安心しました。
みなさま、さすが年の功。マイペースでお暮しの感じが素晴らしい。
(信史)
「五句選」
一鳴きで夏鶯の森となる/U太
身ひとつを納め切つたる夏衣/藻六
魂の成分は水なめくじり/小麦
使者となる蛇神木の穴を出づ/仁誠
手のひらに針を揉みだす新茶かな/仁誠
「特選」
一鳴きで夏鶯の森となる/U太
もう何年も前になるが、夏の蓼科や箱根へと車を走らせては、山々を抜ける爽やかな風や野鳥の歌声を聞いてドライブを楽しんだものである。掲句から霊気にも満ちた美しい山々に、鶯の声が甲高く貫いている風景を連想した。その声は旋律の響きにも似て、全山を覆っている。まるで一幅の日本画をも彷彿とさせ、森の静寂が胸の奥まで染まった。作者にこの句を詠まさせた山(森)はどこか、是非ともお聞きして尋ねてみたい。
「自信句」
訪ふ人に門開け放ち杜若
還暦を迎えた翌年、慣れ親しんだ職場から就業場所が変わった。慣れない職場環境への戸惑いが続くある日、昼食をとろうと外出した公園の水辺に、野生の「杜若」が群生していた。それを見て在原業平の折句「唐衣着つつなれにしつましあればはるばる来ぬる旅ぞしぞ思ふ」をふと口ずさんだことを覚えている。掲句はその時の心情、慣れない地でもこの公園は誰彼となく迎えてくれているではないか、を思い出して詠んでみた。
伝言板
①花火句会、これからの兼題
7月・・・夜店
8月・・・木槿(むくげ)
9月・・・秋刀魚
10月・・・団栗
11月・・・落葉
12月・・・年の市
②中谷U太句集『夢の如くに』
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〈送り先〉
〒509-0116
岐阜県各務原市緑苑西3-50
中谷佳南
句会の予定
2020年7月句会は奇数月のため「テレ句会」です。奮ってご投句ください。
【締切】 7月11日(土)
【兼題】 『夜店』を含む当季雑詠5句
【宛先】 haiku_hanabikukai@yahoo.co.jp
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