月刊花火句会

花火句会は2004年夏、花火シーズンの真っ只中で発足しました。 集まったのは、当時40代から60代の10名余り、全員がそれまで俳句なんぞ作ったことがないというど素人ばかり、それでも俳人山口勝行氏の指導を得て、月1回の句会、年1~2回の吟行を行っております。 句会は、参加者が事前に用意した兼題1句を含む当季雑詠5句を提出、全員で選句します。 選句された句は、入点句として、次回の会報で発表されます。 会員による選句とは別に、山口勝行氏選の優秀句(1、2句)は、山口賞となります。 句会後には、自由参加で懇親会もあり、当日の会員の句を褒めたりけなしたり、まさに議論百出です。

2017年11月


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その⑧ 原藻六

自選100句  〈2004.7―2010.12〉



―春― 


陶(すえ)の街雪解をせかせゐる火入れ


かの女(ひと)の怒りも溶けよ雪解水


薄氷(うすらひ)の行き処なき水に張り
薄氷を詠みながら、行き処なき水に思い入れ。ほんと、人間も行き処がないと、凍えますよね。


薄氷(うすらひ)や喉元過ぐるルイベかな


朝市の菜に薄氷(うすらひ)の陣屋跡
冬の岐阜県高山の早朝の市。まだ薄暗い中、白い息を吐きながら軍手のおばさん達が商っていました。


春はいま夜行列車の一輌目


春浅し唇に寂しきト短調
長調の明と短調の暗。口ずさむのは短調が多い、根が暗いのか。


薄着する少女に靡(なび)く光る風


大竿の撓りを追ふて風光る


風光るさも青暖簾あるごとし


帰農して段段畑の夫婦雛
いろいろ大変だとは思うけど、テレビカメラに手を振っていました。


花便り今どこまでと団子売


海までは花の中なる川路かな
舟を浮かべ両岸に咲きほこる桜を見上げる、それが最高の花見だと力説するひとがいました。


花冷えの息すれ違う吉野山


部屋ひとつ閉じて四月の門出かな


どかどかと来て春泥の置土産
どろんこの長靴、あれが残した泥のかたまりは、掃除するのが大変。でもいいんです、賑やかで。小中学生時代の息子の友人たち。誰れもがもう大人になってしまいました。よって泥の置土産もありません。


春泥の道歩む暮らし水の郷


不意に鳴る胸の空洞春の雷
雷は夏の季語。でも春雷の方が胸に響きます。理由は分かりませんが。


雨呼んであと知らんぷり青蛙
文句を言っても平然としている。こういうのを、蛙の面にしょんべんといいます。


つちふるや辺境の民服(まつろ)わず
東夷西戒南蛮北狄、中央に従わない辺境の民。黄砂は、遊牧民、騎馬民族が巻き上げる砂塵であると。そう思えば黄砂も我慢できるか。


遠足の列のしんがり鬼教師


山に陣幟(のぼり)は白の花辛夷


逃げ水を追ふて拓けし絹の道
ありもしないものを追っかけていると、やがてそれが一つの道になる。そんなことはありえないか。



―夏― 


新人の顔に憂ひの五月来る


五月雨やばら賽銭の濡れそぼつ


どくだみの白き十字架異人館
震災をのがれ15ヶ月間自主避難してきた福島の義母に教わり、どくだみ化粧水なるものをもう六回も作っている。作り方は簡単だが、ここ市街地ではどくだみを入手するのが難しい。他人の庭に勝手に入り込むわけにもいかないし。でも作っている。入手方法は秘密である。


七変化醜女(しこめ)となりて花了る
あじさい(七変化)は移ろいの花である。


夏帽子ひとつ聴いてるストリート


つかの間を飾りて能登の夏のれん
能登の夏は短いのです。


ぐろうか夢二の呼べる夏暖簾


陶沈のひとつだけある夏座敷
昔住んでいた家には畳の座敷と陶枕がありました。陶枕って、昼寝にいいんですよね、ひんやりとして。


車夫挑む炎帝といふ専横者


裸子を鶏追ふごとく母追へり


でで虫の今日ここまでと動かざる


もの想ふをんなひとりの貸しボート
その貸しボートをおとこがひとり橋の上から眺めていました。いえ、別に知りあいではありません。


ためらひを脱ぎすて恋の薄暑かな


ぬる燗に薄口の味夕薄暑


葉桜や父より高き遺児の丈
若くして逝った友人、子供はまだ小さかった。それが今では…


万緑の中D51(デゴイチ)の蒸気音


向日葵や便りなき娘の笑い顔


谷若葉少年の足濡れてをり


ぼうたんの崩るるがごと膝崩す


少女樹となり髪蛍肩蛍
少年時代、豊橋の朝倉川には蛍がいっぱいいました。笹を持って蛍狩りにいきました。30年後訪ねたら、延々とコンクリートの蓋がされて暗梁になり、その上を車が走っていました。


無人駅水うつくしく撒かれをり
蒲郡競艇場近くの駅。財布はからっぽ。そんな渇いた心を癒してくれました。それにしても誰れが撒いたのか。


引き潮に乗り損ねての浜海月(くらげ)


こだわりの日にこだわりの藍浴衣


「抜けられます」涼風誘ふ伏せ屋かな


値踏みして人眺めやる夕端居


火の粉浴び手筒花火や役者顔
あの大筒を抱え込んでいる花火師、スターですよね。豊橋に住んでいる時、二回見物しました。


しがらみを捨てきしあたり遠花火
生きるって、難しいですよね。捨てたつもりでも心の中には残ります。


合切を遣い切っての古籐椅子



―秋― 


輪踊りやまた一周の別れかな
風の盆や郡上踊りのような練り歩きもいいものですが、町内の輪踊りも悪くない。ひとりひとりの顔が見える、あの密度というか濃度というか、好きです。


盆踊り老ひのひっこむ足捌き
特別なんでしょね、盆踊りは。


俯きてただうどん打つ盆の父


まだ波を切る面構え初秋刀魚


若き日の秋刀魚定食君がゐて
かぐや姫「神田川」の世界、演歌俳句ですね。若き日はもう返ってはきませんが、大衆食堂のサンマ定食なら今でも食べられます。それで我慢するしかありません。この句について知人より、これ俳句じゃないでしょ、の評。そう言われるとそうかも。


余生とは枯れてなほ立つ曼珠沙華


散華なぞ知らで枯れゆく曼珠沙華
さっとは散らない。この世に未練たっぷり、かえってそこがいい。


無花果(いちじく)の頬ふくらませ売られけり


日本は縞の切れ端西瓜切る


途切れてはまた継ぐ便り鰯雲


独りなば我と遊べと木の実落つ


老ひ一つ深めて愛でる今年米


荒武者もイケメン仕立て菊人形


花カンナそんなに伸びてはいけません
カンナにはカンナの事情がるとは思うけど、どうも花と茎のバランスがねぇ。


一村を沈めて霧の大湖かな


崩れ簗抜けゆく魚の身のくねり


老優は同い年なり暮の秋



―冬― 


酪酊に揺るる乳房の暮早し


夕冷えや強くひきたる紅(べに)のひび


荒海やもやい結びの冬構え
もやい結びのもやいは漢字では舫いと書き、船を岸壁につなぐ時の綱の結び方。


青首に若気残れる大根かな


尻餅もご愛敬なる大根引き


悴(かじか)みて逢う瀬の支度ままならず


本物の雪国を知る冬帽子
冬の北陸の、とある大学の駐車場で鉄砲をかついだ猟師に出会った。熊がでたんだと言う。その人の毛皮の帽子がすごかった。帽子はファッションじゃねえ、戦闘帽なのよね。


細々と人幅分の雪を掻く


天が地に盛り塩をして富士の雪


浮子の朱の色をなくして日の短か


冬紅葉描く陶工の人嫌い
本当は人嫌いじゃなく、作業中は集中してるんであります。気軽に話しかけてはいけません。


風花に手足重ねるバレリーナ


曳かれゆく牛にゆずりし冬田道
仕事で、真冬の、石川県は白山の麓に三年通いました。朝宿舎を出て仕事先に向かう雪の畦道で牛と遭遇、一面の雪景色のなか、あの牛はどこに曳かれていったのか。


ぬくもりを厭ふ日のあり冬の海


白紙に墨痕掠(かす)れ冬の川
冬の北陸本線の車窓から。雪原の中でも川は流れているんですね、細々と。


枯菊をまだ支えをり青き茎


枯芒(かれすすき)水なき花器に挿されをり


冬帽子鷲掴みして告ぐ別れ
子供の頃習字教室に通い、友達の顔に次々と墨を塗ったら、あとを3才年上の姉が謝って回っていました。その姉を、六甲の鵯越(ひよどりごえ)斎場で送りました。寒い日でした。


コート着て人の形の定まりぬ


犬猿の仲のほぐるる小六月


独り居の洩れ灯にのせる咳ひとつ


凍夜越す仕舞いそびれの縄のれん
朝、仕舞い忘れたのれんを見ると、独特の趣があり、ある種の感慨にとらわれます。そんなのは酒飲みだけ?


相槌を打つにも惓みて炬燵でる


酒切れて話途切れて炭をつぐ




―正月― 


うず高き雪壁の内(なか)去年今年


灯をつなぐ百目蝋燭去年今年


扉開く心音しかと年立てり
今日から新年と思えば、始まりを告げる心臓の鼓動の音が聞こえたような。錯覚です。だけど人間、聴こえない音を聴くって大切ですよね。襟を正せば聴こえます、のかな?


元旦に商う翁の恵比須顔


ぽんと来てほんのひとさし万歳師


踊り子の荷にくくられし注連飾
この注連飾が解かれるのは、何処の地でしょうか。正月早々、居酒屋で会った踊り子が話してくれました。巡業中は家に帰らないそうです。


父と娘の確執を消し初電話


戒名を書初として僧の筆
本来なら「新年」「干支」、「夢」とか「希望」とか書くんでしょうが、仕事柄こうなるんではないかなと。いえ、単なる想像です。



俳句を始めたのは60歳の時。花火句会の立ち上げに向けて、四苦八苦しながらも5句作った。それから13年余、俳句の方は一向に上達しないが、句会後の飲み会、句友とのつきあいを楽しみに参加し続けている。


今回の100句はその13年余の前半、2004年の夏から2010年末までの6年と数ヶ月の間に詠んだ作品(らしきもの)、約500句の内から選んだ。選ぶといっても、特に基準があったわけではない。ただ何となくである。上手いとか下手とか、自信があるとか無いとか、そんなことでは全くない。くどいようだが、ただ何となく、たまたまの100句である。


ところで、ひと昔前の句から自選していて感じたことが二つ。一つは各々の句の舞台裏とでもいうのか、それが思い起こされたということ。この句はあの時の句だなとか、これは吟行でのだなとか、この句は句会での評価はさっぱりだったなとか、いろいろ。中にはすっかり忘れていたこともあったりして。誤解を恐れずに言えば、句そのものよりもそうした背景の方が貴重に感じられたりもしました。もう一つは、この句今ならこう詠むのにという思いにしばしばとらわれたこと(もちろん、だからといって直しはしませんでしたが)。当然ですが、あらゆるものが時間とともに変わるということ。人も俳句もその例外ではない。その時、その情景、その時の己を写し取る『瞬間芸としての俳句』、そんなフレーズが浮かびました。


“多作多捨”の境地にはとうてい及ばない小生ですが、500句以外にも作った句はかなりあったはず。最後に、今は知る由もないそれらの句に次の一句を捧げて、今回の自選100句とします。


葬りし数多の句にも盆供養(藻六)






伝言板 


その① 年末増刊号、原稿提出のお願い

月刊花火句会12月増刊号は、例年通り、年末特集「2017年花火句会この一年」です。会員・投句者の皆さんは、
①この一年を振り返っての感想(500字以内)
②今年の自選句(10句以内~自註も可~)
を12月25日までに、事務局までメールまたはFAXにてお送りください。
よろしくお願いいたします。
※初めての方は、このブログの2016年12月増刊号(144号)をご参照ください。
(事務局より)
 
その② 12月句会兼忘年会のお知らせ

恒例の句会兼忘年会、この号の冒頭にあるように今年は開始時間が早まりましたのでご注意ください。花火句会、今年一年の締めくくりです。会員の皆さんは奮ってご参加ください。特に、最近句会に顔を見せていない人、ヨロシク~!

2017年12月9日(土)
〔句  会〕金山アカデミーセンター4Fにて PM5:30~7:30
〔忘年会〕素材屋(金山駅前)にて PM8:00から2時間程度

《特注》
●予約の都合上、参加される方は12月2日までに小麦までご連絡ください。
●句会、忘年会、どちらか一方のみの参加も可です。



月刊花火句会 これからの刊行予定 


12月16日:2017年12月号(167号)
  『12月定例句会(12月9日)報告

12月31日:2017年12月増刊号(168号)
  年末特集『2017花火句会この一年』



句会の予定 


【日時】 2017年12月9日(土) 17:30~
 ※開始時間が30分早くなりました。ご注意ください。
【会場】 金山アカデミーセンター4F
【兼題】 『根深汁を含む当季雑詠5句



投句の受付 


◆投句料は不要、投句される方は、メールにてお願いいたします。
◆作者名は本名でも俳号でもかまいません。
◆投句数は5句でお願いいたします。
◆締切りは12月7日(木)とさせていただきます。
◆投句いただいた作品の内、句会での入点句は、次回のブログにて
  発表させていただきます。
◆受付メールアドレス:haikuhanabikukai-aichi@yahoo.co.jp



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【日  時】 2017年11月11日(土)
【会  場】 金山アカデミーセンター4F
【出席者】 勝行先生、小麦、仁誠、沓九郎、信史、カモメ、按庵、一筋、
       藻六、増田
【投句者】 U太
【兼  題】 『七五三』を含む当季雑詠5句



あれやこれや、話題満載の句会でした。詳述すると長くなりそうなので、簡潔に報告させていただきます。


①句会の開始時間、変更!
参加者全員の協議により、次回の句会からPM5:30スタートと決まりました。遠来組の帰宅時間を考慮しての決定です。これからの花火句会は原則として毎月第2土曜日午後5時半からとなります。ただし、第2土曜日が不都合の場合はPM6:00スタート。いずれにしても、参加予定者は、毎号、このブログの最後、『句会の予定』で確認の上お集まりください。


②12月句会兼忘年会について
恒例の12月句会兼忘年会については、以下のように決まりましたので報告します。奮ってご参加ください。


2017年12月9日(土)
〔第1部句会〕
会場:金山アカデミーセンター4F
時間:PM5:30~7:30
兼題:『根深汁』を含む当季雑詠5句


〔第2部忘年会〕
会場:素材屋(金山駅前)
時間:PM8:00から2時間程度
参加費:4000円(オール込みいわゆるぽっきりです)


●今回の句会兼忘年会は、昨年11月に合同句会を開いた、らくだ、土ノ子、もみぢさんら「深海」の皆さんにも参加を呼びかけております。ご承知おきください。
●句会と忘年会、どちらか一方のみの参加も可です。
●会場予約の都合上、忘年会参加者は、12月2日までに小麦までご連絡ください。よろしくお願いします。


③入会1年、信史、トップ賞に!
昨年12月句会から花火句会の会員となった信史、今回総合点11でトップに。先月のカモメに続き、またまたの大波乱となりました。この信史、前回の10月は零点ですよ、零点! それが今回トップとはねぇ、この世の中、何が起こるか分かりません。その原動力となったのが「襟元に冬近づきて床屋出る」の句。4人の会員が点を入れ、その内3人が特選句に。よってこの句だけで7点稼いだということ。当分の間、その床屋さんに足を向けては寝られないと思う。句会後の居酒屋で花火句会の「講釈師」智昭が、「先月の零点こそが今回のトップ賞を生んだ」ともっともらしく解説していました。そこで智昭の得点はと見てみると、3点でビリ。智昭には「今月のビリを来月に生かせ」といいたい。もう一人、持ち点6の内4点を信史に献上した藻六は、例によって「しくじったぁ、よく読んでみれば4点は多すぎたぁ」と後悔しきり。こんなんだから「後のお祭り男」なんて言われるんであります。情けなし!


④ギョ、ギョ、ギョの按庵!
「秋の夜私友達居ないかも」という句が出され、こういう句を詠むとしたらU太か小麦かと思った人が多いと思う。しかし、作者として名乗り出たのは、なんと按庵! あの按庵でっせ。どないしたん、何が起こったねん、頭確かか。殻を破る、新境地を拓くったってねぇ、限度っちゅうものがあろうが…と、思うんでありますが、皆さんの評価は? 60男が急におかまに変身したような、そんなとまどいを覚えました。(別におかまへの偏見はありません、念の為)


⑤居酒屋「くしかつでんがな」!
他にも話題はたくさんありましたが、割愛してシメの居酒屋へ。くしかつでんがな、これ、れっきとした店名なんです。嘘じゃありません、本当です。電話の登録もそうなっていました。新しく出来た店、どうやら大阪から金山に進出してきたらしい。出来たばかりのビルの1Fでの新装開店なので、本場大阪の古い串焼き店のような、これぞ庶民の店といった猥雑感には欠けますが、気楽ないい店でした。メニューも豊富。値段については何を注文したか、何杯飲んだかも忘れたので、よく分かりませんが高くはなかった。それだけは確かです。それにしても、くしかつでんがなという店名。その内、ラーメンでっせ、味噌カツだぎゃあ、そばだでよぅなんて店ができるかもしれません。ここで2時間ほどの飲み会、全員ほろ酔い加減で帰路につきました。ともかく、面白く、楽しい句会でした。



《七五三16句》


七五三両家祖父母もはにかんで


七五三後(のち)の多幸も乞ひにけり


七五三羽織袴にスニーカー


二組の祖父母従へ七五三


晴れ着の子仏頂面の七五三


ゆるキャラも羽織袴の七五三


鬼宿日(きしゅくにち)万事大吉七五三


七五三子には大人(おとな)し修祓(しゅばつ)かな


参道にコナンの集う七五三


鼻ピアスの親も子を連れ七五三


七五三慣れない草履(じょり)で砂利の径


神木も目を細めたり七五三


七五三産着(うぶぎ)ゆ日立(ひだち)柏打つ


七五三宮内(みやち)に入りて左見右見(とみかうみ)


竹馬の友来合わせたる七五三


袴著(はかまぎ)を早く脱ぎたき腕白子




一席 


襟元に冬近づきて床屋出る/信史



二席 


二組の祖父母従へ七五三/小麦



三席 


摘み終へて棘痕沁みる柚子湯かな/仁誠




今月の入点句は特選句) 



山口勝行
袴著を早く脱ぎたき腕白子
街道にバケツで売られ富有柿
風神も休み給ひし小春かな


梶原信史
襟元に冬近づきて床屋出る
人差し指立てて準(なぞら)ふ書道展
背表紙に木漏れ日揺るる小春かな


加藤小麦
枯蟷螂空の青さの遠過ぎて
二組の祖父母従へ七五三
諍ひて目の端に見る赤まんま
枯葉踏み喜んでいる土踏まず


河村仁誠
ゆるキャラも羽織袴の七五三
摘み終へて棘痕沁みる柚子湯かな
木枯しやまた灰皿に煙立つ

 

高津按庵
秋の夜私友達居ないかも
太麺の焼きそば旨し台風過
晴れ着の子仏頂面の七五三


深井沓九郎
黄落を眺め踏みしむ老いの道
客来ぬとはや店仕舞冬の雨
演歌ばかり皆が選びし冬隣
鼻ピアスの親も子を連れ七五三


原藻六
参道にコナンの集う七五三
日潜りへそろりと動く冬隣
行き惑う追分の空いわし雲
膝崩しいつしかあぐら濁り酒

 

中谷U太
裏山に柿の落ちたる音のやう
人生を語るによろし雪催
ベッド買ひて幸せである冬のぼく
七五三羽織袴にスニーカー


御酒一筋
日の光り芒の銀にまみれけり
秋の宴終えて新婦の魔法とけ
赤まんま歩道のすき間居と定め


仲野カモメ
七五三宮内(みやち)に入りて左見右見(とみかうみ)


増田智昭
ひと休みしたる小春のカフェかな
冬めくや逃げ足速きか弱き陽




山口勝行選評 


鼻ピアスの親も子を連れ七五三/沓九郎


今月の最優秀句としたこの句、今時の親の有り様を上手く詠んでいます。しかし、風体で人を評価してはいけません。子を想う親心には何の変わりもありません。礼儀正しい七五三の神事、畏った句ばかりでなく、他にも「七五三羽織袴にスニーカー」「ゆるキャラも羽織袴の七五三」「参道にコナンの集う七五三」など、ちょっと不行儀な句があって面白かった。


大量点を集めた信史の「襟元に冬近づきて床屋出る」。季語は「冬近し」または「冬隣」。それはいいのですが、時系列に考えて、下五を上五へと移動させました。「床屋出て襟元に冬近づきぬ」に。散髪を終えて外に出た途端、近づく冬を感じたというわけです。同じく信史の「竹馬の友来合わせたる七五三」、神社に詣でたら、同じように子(または孫)を連れた竹馬の友に会ったの句。思いがけず偶然にを表わす(ゆくりなく)という言葉があります。「竹馬の友ゆくりなく逢ひ七五三」に。これも信史ですが「人差し指たてて準(なぞら)ふ書道展」、最初点を入れたのですが、無季なので取り消しました。(人差し指)と(書道展)を生かしたうえで、無季を避けられないか、推敲されたい。


小麦の「枯蟷螂空の青さの遠過ぎて」は下五を(遠すぎし)としました。下五の「て」は物事を曖昧にします。言い切って、力強さを出してください。


カモメの「七五三宮内(みやち)に入りて左見右見」。神社に行ったら広すぎて、あっちこっちをウロウロ、キョロキョロの句ですが、「七五三内陣に入り左見右見」としました。寺社には内陣、中陣、外陣があります。点は入りませんでしたが同じくカモメの「鬼宿日(きしゅくにち)万事大吉七五三」、この鬼宿日というのは嫁取りのほかは万事大吉という日のことです。よって中七の万事大吉は不要、「鬼宿日選んで詣ず七五三」としました。




句会を終えてひと言 



初冬ってあまりイメージが湧きません。もう少しすればクリスマスだ、スキーだ、年末、新年だとなるんだけど、11月上旬、今のこの時期は句づくりには一番いかんと思う。気分的にも良いことは一つもない。皆もそんな感じで、全体的にちょっと低調? (それとも低調は私だけか)。七五三、本来は子供の行事なのに、喜んでいるのは周りの大人ばかり。従って句づくりも、ついつい両親や祖父母の心情に目が向く中、しっかり主役の子供を見据えている按庵の「晴れ着の子仏頂面の七五三」が特選。確かに子供にしてみれば「何のこっちゃ」ですわな。昨晩のカラオケ店での風景。ワッーとなったあと急にしんみり、「演歌ばかり皆が選びし冬隣」になっちゃったぁ。これも今の季節のせい、ほんと低調。 (沓九郎)


「赤まんま」という言葉、「赤とんぼ」と「鬼やんま」の合成語かと思った。歳時記で調べたら、植物のこととは!! 今度じっくり眺めたい。いつも何か勉強になる句会だ。特選句としたのは信史の「襟元に冬近づきて床屋出る」。実に素直な表現に魅かれた。床屋を出るといつもちょっと頭が寒いものだが、冬間近のこの時期は特にその感が強くなり、ピッタリ。襟元に注目したのがいいと思う。小生の「ランナーの足音落ち葉の吹き溜り」。川沿いの道、紅葉も終わりわずかの葉を残すのみ。散歩する人もまばらだった。そこにマラソンの練習か、一心に走っている人。落ち葉を踏むその足音が余韻として残りました。この句、入点ゼロ。そりゃないぜよ、おとっつぁん。 (按庵)


時のうつろいにつれて芒は姿ばかりでなく色も変わる。白い穂先は次第に銀色に、さらに進めば鈍色へ。この時期は銀色の時。その、銀色の瞬間(とき)に日の光がまとわりついているのであ~る。それがしの「日のひかり芒の銀にまみれけり」、実に美しいのであ~る。枯れ木色をしたカマキリ、あの澄んだ空の青さとはあまりにも遠い姿、形、色。それでも、オノを振り上げている、あるいは陽なたぼっこをしている、はたまたメスにちょっかいを出そうとしている。空のかなたまでは行けなくとも、ひとつの命が確かに息づいているのであ~る。「枯蟷螂空の青さの遠過ぎて/小麦」が、それがしの選んだ句なのであ~る。 (一筋)


俳句が共感の文芸だとすると、読み手の「それ分かります!!」が最高の褒め言葉だと思う。まさにそうした一句、信史の「襟元に冬近づきて床屋出る」。晩秋、散髪後の冷気に季節の移り変わりを感じるという日常生活の一面を上手く切り取っています。奇を衒ったり、技巧に走ったりしない素直さ、素朴さもいい。久しぶりの句会、これまた素朴にと一句詠みました。「ひと休みしたる小春のカフェかな」。今年は雨の多い10月だったので、小春のカフェで飲んだカフェオレが一段と美味しく感じられた。この句、先生から(カフェかな)を(カフェテラス)と添削されました。ここは素直に、素朴に、「ひと休みしたる小春のカフェテラス」でいかせていただきます。○○さん、素直さ、素朴さが大事ですよ。 (智昭)


小学生の頃、授業後は決まって津島神社の森で遊ぶのが日課だった。銀杏落葉が森を埋めるこの頃は、これも決まって落し穴を作ったものだ。仕上げは穴を隠すこと。落ち葉を重ねて蓋をかぶせる。これで絶対見つからない。「落し穴銀杏落葉の蓋被す」が今日の自信句。66歳を過ぎて迎えた今年の秋はまだまだ暑い日が多かったが、さすがに立冬を前に寒くなった。体重が増えたり、あちこち関節が痛い訳でもないが、近頃とみに動きが緩慢になってきている。日溜りの方へとそろりと動いている自分をみて情けないやらおかしいやら。でも、まだ動けることへの感謝が一番か。藻六の「日溜りへそろりと動く冬隣」が特選。 (仁誠)


今日のトップ賞は入会満1年の信史だって? 許せん! 早すぎる! 俳句の道は遠く険しい、もっと修業を積まないかん。誰れだ、信史の句に点を入れたのは、許せん! と思って選句用紙を見たら、わてでんねん。すんません、修業します。という訳で◎を打ったのは信史の「襟元に冬近づきて床屋出る」。以前作ったわての「二の腕にまずは取り付き秋の風」を思い出しました。どっちがいい? そりゃ、ま、言わぬが花です。年2回はトップ賞をとるつもりなのに今月も下位低迷。今年残された句会は1回のみ。完全に赤信号が灯りました。それにしてももう忘年会ですか。速すぎるでかんわ、時の流れが。誰れぞ時間を止めてくれっ! ついでにわてに点をくれっ! (藻六)


俺も歳取っちまったぜい、yeah! 知らないうちに歳を取り体力も落ち、老人っぽい雰囲気を漂わせている(bywife)、らしい。そんなこたぁないと強がってみせたが、ある時たまたま他人が撮った自分の写真を見て、ガックシ!以来、60歳は折返し、これからはBabyに向かって若返るぞといろいろチャレンジしているのだが…。特選にしたのは沓九郎の「黄落(こうらく)を眺め踏みしむ老いの道」。しかし後から考えると、こういう句を選ぶというのがそもそもいけません。これでは老いに共感している。抵抗しなきゃ。選択を誤ったぜい、yeah! 自信句は「七五三宮内(みやち)に入りて左見右見(とみこうみ)」。ふだんは行かないお宮さんに行って「ここはどこ?」「本殿はどっち?」「お祓いってどうするの?」状態。それを詠んだ。 (カモメ)


10月末、知人が出品した絵を見にでかけた。100号の大作、これだけのものを描く創作意欲、気力、体力に圧倒されました。その時、たまたま同じフロアーで開催されていた「書道展」にもふらり訪れてみました。知人には申し訳ないが、私としてはむしろこちらの方に心を奪われました。筆の運び、タッチ、墨の濃淡等、身震いを覚えたほど。ふっと自分の指が動いて文字を準っていました。その時の句が「人差し指立てて準(なぞら)ふ書道展」です。靖国神社、明治神宮など大社を初めて訪れた時、どこに本殿があるのかと右往左往、ようやくたどり着いた時にはぐったり。その時のことを思い出しました。カモメの「七五三宮内(みやち)に入り左見右見(とみこうみ)」を特選に。 (信史)


ブレザーに半ズボン、蝶ネクタイの名探偵コナン君、そんなファッションの子供たちが神社の参道に集合している。おめかし、よそ行きの子供をコナンの三文字で伝えたところがお手柄。「参道にコナンの集う七五三/藻六」が特選。歳時記で調べると、枯蟷螂(かれとうろう)というのは事実ではなく、カマキリにはもともと緑色のものと褐色があって途中から色が変わることはないとのこと。それでも、昔の人は冬になると草木と同じように枯れると見て「蟷螂枯る」と表現、それが季語になった由。実際には鳴かないのに「鳴く」が春の季語なのと同じ。ここらあたり、事実は事実、季語は季語と割り切るところが俳句のよさでありんす。であちきの「枯蟷螂空の青さの遠過ぎて」。深まりゆく季節に枯葉色に変化したカマキリくん、空の青色に染まりもう一度昔に返りたいけど、あまりにも遠くてかなわない。憧ればかり。時間は過去には戻せませんという句でごじゃります。今日の収穫、「代々の生活(たつき)染み込む茎の石」という句があって、茎(くき)の石? 何それと思ったら、漬物の重しの石のことで季語だって。勉強になりました。 (小麦)




伝言板 



その① 年末増刊号、原稿提出のお願い


月刊花火句会12月増刊号は、例年通り、年末特集「2017年花火句会この一年」です。会員・投句者の皆さんは、
①この一年を振り返っての感想(500字以内)
②今年の自選句(10句以内~自註も可~)
を12月25日までに、事務局までメールまたはFAXにてお送りください。
よろしくお願いいたします。
※初めての方は、このブログの2016年12月増刊号(144号)をご参照ください。
(事務局より)

 

その② 12月句会兼忘年会のお知らせ

恒例の句会兼忘年会、この号の冒頭にあるように今年は開始時間が早まりましたのでご注意ください。花火句会、今年一年の締めくくりです。会員の皆さんは奮ってご参加ください。特に、最近句会に顔を見せていない人、ヨロシク~!


2017年12月9日(土)
〔句  会〕金山アカデミーセンター4Fにて PM5:30~7:30
〔忘年会〕素材屋(金山駅前)にて PM8:00から2時間程度


《特注》
●予約の都合上、参加される方は12月2日までに小麦までご連絡ください。
●句会、忘年会、どちらか一方のみの参加も可です。




月刊花火句会 これからの刊行予定
 


11月29日:2017年11月増刊号(166号)
  『自選100句』シリーズ
   その⑧ 原藻六


12月16日:2017年12月号(167号)
  『12月定例句会(12月9日)報告




句会の予定 



【日時】 2017年12月9日(土) 17:30~
 ※開始時間が30分早くなりました。ご注意ください。
【会場】 金山アカデミーセンター4F
【兼題】 『根深汁を含む当季雑詠5句




投句の受付 


◆投句料は不要、投句される方は、メールにてお願いいたします。
◆作者名は本名でも俳号でもかまいません。
◆投句数は5句でお願いいたします。
◆締切りは12月7日(木)とさせていただきます。
◆投句いただいた作品の内、句会での入点句は、次回のブログにて
  発表させていただきます。
◆受付メールアドレス:haikuhanabikukai-aichi@yahoo.co.jp

















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