第十三回 兼松農園
兼松 みさちーた
きっかけは4年前の春。斜め裏の土地で新築工事があり、我が家の駐車場を資材の搬入のために1日貸すことになった。恐竜のように大きく首の長いクレーン車が駐車場の奥で、鉄筋や木材を朝から夕方まで持ち上げては塀越しに下ろすのを、私は興味津々で眺めたりした。そしてその夏、梅雨になると、クレーン車が作業していた駐車場の一角がへこみ、雨が溜まるようになった。
梅雨空の下目の合ふは我と吾
搬入作業を行った工事業者さんに連絡を取り、原状回復をお願いするかわりに、その波打つアスファルトを剥がしてもらった。その後、埋まっている大量のがれきを取り除き、土を足し、堆肥を入れ、野良猫対策にネットで柵を張った。
そうして出来たのが、兼松農園だ。
兼松農園は約380cm✖️230cm。大人が4人くらい横になれるだろうか、農園と呼ぶにはおこがましいが、立派に聞こえるのでそう呼んでいる。
そして次の春、初めての作付けが始まった。一般的な夏野菜を数種類。しかし、なにぶん初めてなので勝手がわからず、その年はなぜかピーマンの苗を5つも植えてしまった。収穫するたびにこれが最後かもと思いもったいぶって他人にあげることもせず、結局夫婦2人で消費するのに苦労した。ナスはふた株植えたが、採れたのは全部で4本。正直、スーパーで買ったほうが安上がりと思った。
また明日ねトマトの照れて赤くなり
何もかも初めてのことで苦戦していたが、幸い父が以前から家庭菜園をやっているので、父にアドバイスをもらいながら作物を育てた。父は特に水やりにはうるさく、水のやり過ぎには気をつけろよとそればかり言うので、控えめにしていた。梅雨に入り連日雨が降ると、作物が急成長を始めた。それまでの育ちの悪さの原因は水不足だった。水をやり控えすぎたのだった。渇きが癒えたのか緑も鮮やかになり、目まぐるしい成長に目を見張った。その年は失敗も多かったが、収穫の喜び、学びや発見の方がはるかに多く、食卓も心も豊かに、我が家の毎日に今までにない彩りとなった。
雨粒にざわざわ緑騒ぎをり
兼松農園は南側が3階建てのビルのため、陽が当たるのが4月中旬から9月中旬まで。夏野菜しか育てられない。それ以外はビルに太陽が遮られ、真っ暗で寒く雑草さえ生えない。
ある年、試しに秋口にコスレタスの種をポットに蒔き、日当たりの良いところで育て、ある程度大きくなったら、陽の当たらない畑に移植してみた。するととたんに苗は休眠期に入ってしまった。植えて2ヶ月ほど(その年の内)で食べられるはずが、年をまたぎ、春の兆しがうっすら見え始めた2月くらいに眠りから目覚めたのかゆっくり成長を始めた。それまで、霜や雪にあたらないように毎晩、雨の日も雪の日も段ボールを被せてやり、朝になると段ボールを退けてやった。食べられるまでに半年かかった。
陽が当たらないというのは、畑には致命的のようだ。なんとかならないかと思い、家にあったホワイトボードを使い畑に太陽光を反射させてみたりもした。さすが太陽は刻一刻と移動している。いや違う。地球は常に、止まることなく回っている。太陽光がちょうど作物に当たるようにボードの角度を調節して置いても、ものの3分後には光はもうターゲットからはずれている。冬の野菜づくりは諦めた。しかし、冬に育てたい葉物野菜は虫除けのトンネルをかけてあげたりと手間はかかるし、寒く冷たい中での作業で大変だ。実は心の奥で安堵している。
寒晴により濃ゆる陰我の畑
今年で作付け4年目。土質もよくなってきた。2年目からはみみずも住み着いて耕すのを手伝ってくれるようになった。その一方で、病気が蔓延したり、毒キノコが次々と生えて、カサが開く前に取り除く作業に明け暮れた時もあった。バッタが大発生してナスの株が丸裸にされたり、ただでさえ猫の額ほどのコンパクトな畑なのに、かぼちゃのツルで人が入れないほどのジャングル地帯になったりと、毎年予測もつかないことが起きる。今年も春の作付け前の土作りの時期がやってきた。さて、今年は何を植えようかな。どんなことが起きるかな。
鍬高く土に希望を漉き込まん
伝言板
1.4月から始まる新企画『自選一人100句シリーズ』、寄稿にあたっては次の点にご留意ください。
①句の数はピタリ100句を厳守すること
②自註可
③前文、あとがきは自由
『自選一人100句シリーズ』予定
4月増刊号 その①仲野カモメ
5月増刊号 その②加藤小麦
6月増刊号 その③深井沓九郎
7月増刊号 その④河村仁誠
8月増刊号 その⑤高津按庵
9月増刊号 その⑥上田三枝
10月増刊号 その⑦増田智昭
11月増刊号 その⑧原藻六
その⑨以降は2018年1月増刊号からの掲載となります。
2.今年の吟行は5月に決定しました。日時、行き先などは決まり次第お知らせします。ぜひご参加ください。
月刊花火句会 これからの刊行予定
★3月16日:2017年3月増刊号(149号)
『月刊花火句会番外編:中谷U太』
3月句会の日程上、3月は増刊号が先になります。
★3月25日:2017年3月号(150号)
『3月定例句会(3月18日)報告』
句会の予定
【日時】 2017年3月18日(土) 18:00~
【会場】 金山アカデミーセンター4F
【兼題】 『春泥』を含む当季雑詠5句
投句の受付
◆投句料は不要、投句される方は、メールにてお願いいたします。
◆作者名は本名でも俳号でもかまいません。
◆投句数は5句でお願いいたします。
◆締切りは3月16日(木)とさせていただきます。
◆投句いただいた作品の内、句会での入点句は、次回のブログにて
発表させていただきます。
◆受付メールアドレス:haikuhanabikukai-aichi@yahoo.co.jp