第十回 デュオ「ドクキゼオス」
(尾関“TATA”真とドクター兼松)に聞く
by原 藻六
――まずは今回のキューバ行きについて。
Doc
9月10日から25日までの2週間ちょっとの旅でした。セントレアから羽田へ、そこからトロントを経てキューバの首都ハバナへ。さらにそこから第2の都市サンチアゴ・デ・クーバへ。所要時間は大体羽田―トロント間が13時間、トロント―ハバナ間が3時間半、ハバナ―サンチアゴ・デ・クーバが1時間です。日本ではキューバっていうでしょ、でも現地での発音は「クーバ」なんですよ。クーバのサンチアゴでサンチアゴ・デ・クーバ、そこが今回の主な目的地だったんです。費用は一人25万円、三人で行ったんで(ドクキゼオスの二人とみさちーた)75万円。この間せっせと貯め込みましてね、それでです。宿泊費が安くてホテルで5千~2万円、日本の民宿のようなとこだと2500円くらいで泊まれる。目的は音楽交流、今現在のキューバ音楽についての情報収集、どんな曲が流行ってるかとか、どんなムーブメントが起こってるのかとか。
タタ
音楽交流の方は地元のイベントやお店なんかのショーに飛び込みで参加させてもらったり。事前の予約はなし。わたしは今回で7回目のキューバ行きなんでそれなりの人脈、ルートはあるし…。それに同行のみさちーた、スペイン語を含めての交渉力がバツグン。話をまとめてきてはあっちに行け、こっちに行けって。二人はそれに従うだけ、敏腕プロデューサー並みでしたね。
Doc
わたしは今回で4回目のキューバなんですが、キューバは音楽と踊りの国なんですよ。ちょっと演奏してみせて、これはいい、面白いとなったら即出演OK。面倒なことは言わない、そこがいいですよね。
――日本との関係はどうなんですか?
タタ
日玖関係は悪くないと思うな。(キューバの日本語名は玖馬)。まずは、あの憎っくきアメリカと戦争したという歴史的事実、これが大きいんでしょうね。日本は負けたけど。それに戦後の座頭市やおしんといった映画やドラマ。特に貧しい国ですからね、おしんの人気は絶大です。それにキューバは野球が盛んなんで、中日ドラゴンズのリナレスとかビシエドといったキューバ出身選手たちの存在、これが大きい。そんなこんなで、日本とか日本人に対するイメージはいいんだと思うな。
Doc
わたし達アジア人って、キューバの人から見たらみな同じに見えるんだと思うんですよ。日本人も中国人も韓国人も。そこでみんなチーノ(中国人のこと)になっちゃう。でも、わたしは日本人ですと言うと、途端にニコニコする、そういう面ってあるんです。理由はよく分かりませんが…、たぶん日本びいきなんだと思います。
タタ
中国人というと打算的、お金にシビア、金払いが渋いというイメージがあるのかもね。逆に日本人はお人好しという。ハバナには中国人の店も結構あるんで、そっちの方からのイメージからかもしれないけど。ともかく日本人には好意的だよな。
Doc
ただ、だからといって、これからはというと、楽観視ばかりもできない気がする。オバマ大統領のキューバ訪問もあったし、偶然われわれと同時期になった安倍首相のキューバ訪問もありましたよね。今後日本とキューバの関係も変わっていくと思う。今の日本への好印象、これを大切にしていきたいですよね。その為には経済面だけじゃなく、スポーツや文化、特に音楽とか芸能面などでの交流が必要、経済だけってのはちょっとね。
――キューバ人って、どんな人たちなんですか。
Doc
多民族国家だし、混血も多いし、それに結構格差社会でもあるんで一概には言えないんだけど、一般庶民の一般的な傾向としては『逞しさ』、これは感じますね。上手く言えないけど、境遇に押しつぶされるんじゃなく、それを撥ね返そうとするとでもいうか。それと日本のようにモノが溢れてるわけじゃない、しかしその分、物を大切にするし、再利用にも熱心。あるものに工夫して有効活用、そのための努力もおしまない。好奇心も旺盛なんですよ。何にでも首をつっこんでくるという感じ。陽気で人なつっこい。
タタ
ただね、日本人のようには空気を読めないから、時には迷惑に感じることもある。例えば物を売りつけられた時なんか、いらないものはいらないとはっきり断らないとダメ、こっちの顔つきや態度で分かってよというのは通じない。これ、特にキューバに限ったことではないとも思うけどね。
Doc
ちょっと見栄っ張りの傾向もありますよね。普段の服装は地味なんだけど、いざという時にはありったけ、フル動員でおしゃれするとか。お祭りとか結婚式なんかですかね。そういう時って、実に前向きでアグレッシブ、全力投球って感じ。みんなで集まってワイワイやるのが好きなんですよ。そんな時に自己主張が凄いんです。
――そんなキューバとキューバ音楽にお二人が魅せられていく、そのきっかけは?
タタ
わたしの場合はサルサ。サルサというのはラテン音楽の一つなんだけど、1970年代ですかね、ずいぶん流行ったのよね。ニューヨークで中南米出身の音楽家たちが作り出したものです。それ聞いてて、いいなぁと思って。しかしですね、リズムがよく分からんのですよ、リズムが。それでそれ探ろうということで、どうせならニューヨークじゃなくて本場のキューバに行こうと。44才、今から22年前のことです。それがきっかけ。
Doc
わたしはソンですね、ソン。キューバの東部で19世紀に生まれたものらしい。マンボやチャチャチャもこれから派生したといわれてるんですがね。何といってもメロディが美しいし歌詞もいい。恋の歌が多くて、女心を切々と歌いあげる、そこにグッと引きよせられました。日本でいうとブルース、それに通じるものがある。途中から激しいダンス曲に切り換わるんですが、その変わりようも魅力ですよね。静から動。キューバはスペインの植民地だったんで、スペイン舞踊の影響でしょうか。
タタ
独特の民族楽器も多い。弦が2本ずつ3コースに別れていて計6本のトレスギターとか火で焙って使う太鼓のボンゴなんか。ネイティブ感があっていいものです。これはアフリカ経由だと思うんだけど。わたし達の耳に入ってくるキューバ音楽ってアメリカの影響が強い。ニューヨークでうけたとかうけなかったとか。それにアメリカナイズされてる。それはそれでいいんだけど、できれば生のキューバ音楽、ラテンミュージックに会いたい、そんな想いが強くあった。それでキューバに行って見事にはまっちゃったって感じですね。
――お二人がデュオ「ドクキゼオス」を結成するまでの道のりは?
Doc
二人とも「ドスキゼオス」出身。ドスキゼオスというのはマエストロ須藤と尾関タタを中心とした総勢9人のキューバラテン音楽のバンドです。それが2008年に分裂して別々の道を歩み始めた。原因? う~ん、須藤さんとニイサン(タタのこと)の、夫婦ゲンカみたいなものですかね、ハハ。
タタ
音楽の方向性でちょっと違和感というのもあるけど、今考えると子供じみたところもあったよね。お互いのわがままとか、時間の使い方とか、仕事との関係とか。それで行き詰って、なら別れようと。それからはそれぞれ4、5人でグループを作って、別々に活動してた。わたしはキューバ人やスペイン人にも参加してもらってやってたし、須藤はこのドクターなんかとやってたわけ。けどね、別れて数年、やっぱり寂しいわけよ。それでもう一度一緒にやろうと、須藤と話し合う機会を窺っていたんです、実は。けど、彼、病に倒れちゃった…。それが2013年、分裂して5年後のことでしたね。それでその年の9月に須藤が逝って、その追悼の会をやろうということになった。そこでわたしとドクターが唄を歌った、これがデュオ結成のきっかけ。これも何かの因縁なのかなぁ、須藤との。
Doc
音楽で一緒にやろうという時は一度は共演してみないと分からない。あの時は確か、わたしが亡くなった須藤さんの代わりみたいに唄い、ニイサンと共にハモる、そんな風だったと思うんっだけど。それが意外に上手くいった…。なら、これから一緒にやってみようかと。声をかけてきたのはニイサンですよ。二人は17違うんです、年が。ニイサンは66才で、わたしは49才。音楽やるのに年は関係ない、基本的にはその通りですが、先輩ですからね、ニイサンは。人生でも音楽でも。ただ、音楽的にソリが合わない、この人とはやれないと思ったら断ればいいんで。それをそうしなかったのは、フィーリングというか、どこかで共感するところがあったからですよね。それから二人で活動を始めたんです、デュオ「ドクキゼオス」として。
――すると結成から3年ですか、それ振り返ってみてどう?
Doc
音楽的にも上手くいってると思いますよ。まず唄は同列ですが、主に低音部がタタ、高音部がわたしということでやっていますが。もちろん人間ですからね、違いはありますが、それぞれの個性が引き立つのがデュオだと思います。わたしは前にもいったけど、ソンが好きなんですよ。それもどちらかというと古いソン。なのでできるだけ原曲を尊重していきたいと思ってる。ニイサンはね、歌詞に合わせて即興的にメロディを変える、そういう面があるんです。
タタ
ポイントをどこに置くかだよね、原曲にこだわるか、それとも自分の感覚に合わせていくか。どちらにも一長一短があって、どっちの方がいいとは言えない。お互いに折り合ってやっていく、それしかない。実際問題としてはお互いに牽制しあったりけしかけたり、かえって緊張感があっていいよね。そういえばこういうことがあったんですよ、この前のキューバで。キューバの古い曲に日本語歌詞で歌うところを、急遽、途中からスペイン語の歌詞に戻して歌いましたが、それまで日本語だったキューバの曲を途中から急になじみのあるスペイン語で歌われたので、現地の人に、とてもうけたんです。もう絶賛。
Doc
そうでしたね、これ日本じゃ考えられない。キューバの曲を、キューバ人はスペイン語で、日本人は日本語で大合唱。何とも言えない混ざり具合で溶け合ったんです。
タタ
そうそう。外国人の自分たちは、キューバのソンを歌っていても、所詮わたしらがキューバ人になれるわけじゃないんでどこかで日本化されてる。それをどうやって、両立させて歌うかってのは難しい問題だよね。ドクターはそもそもソンのブルースに通じるところにも強く惹かれた訳だから、そんな部分も大切にしないとね。そこは分かってるつもりなんだ。
Doc
キューバの音楽っていうと歌詞とメロディと踊りが一体化している。スペイン語で歌ったときの、語感というか、リズム感がすごく重要なんです。だから、日本語に置き換えても、そうしたリズム感が失われないような、それでいて日本語の歌詞として成立するような、そんな部分を大事にしています。だから、キューバ人も日本語は理解できなくても、曲を楽しむこともできるし、日本人は歌詞もリズムも楽しめるっていう感じ。どちらを大切にするか、この辺は、お互いの曲作りでのこだわり方に差が出るところかもしれないです。
タタ
だろうね、なかなか単純なもんじゃない。まいろいろあるけど、格好よく言えば、お互いに切磋琢磨してやっていくしかない、これです。どっちにしたって、歌が歌えなくなったら二人のデュオも終ってしまうわけだから。これからも大事にしないと、お互いに。
――今、現在の音楽活動は?
Doc
月1回、第3木曜日の20時、伏見のシガークラブでライブをやってます。それから2、3ヶ月に1回くらい、違う場所でライブをやったり、他のグループと共演したり。仕事があるんで、それで精一杯。シガークラブはおひねり制でしてね、売上げはお客さんまかせ。あそこはヒルトンホテルの裏なんで、日本人の他にも外国人の泊り客なんかが聴きに来てくれるんですよ。キューバ音楽、ラテンミュージックなんで丁度いい。
タタ
そうそう、それで万札なんかを放り込んでくれたりして。おかげで赤字にはならない。助けられてる。リハ(リハーサル)は月に3回程、1回3時間程度ですね。両方があいている土曜日にやってます。
――これからの目標は?
タタ
とにかくね、キューバ音楽の広告塔というか、日玖の音楽交流の窓口の一つになりたい、そう思ってる。ちょっと宣伝めくけど、今度キューバで90年続いている有名なバンドに2曲ほど参加することになるかもしれなくて。そのバンドは今年のラテングラミー賞にノミネートされてるバンドだから、もしかしたら話題になるんじゃないかなんて、淡い期待を抱いている。賞うんぬんじゃなく、キューバ音楽にスポット当てるという意味だけど。
Doc
それと、自分たちのCDをリリースしたいですね。ここ名古屋での音楽活動って制約があるし、だからって全国を飛び回るわけにもいかない。CDでより多くの人に聞いてほしい、そういう思いはあります。これは近い将来にぜひ実現したい。ある程度のものはもう録音して、キューバでも多くのミュージシャンに聴いてもらってきました。できるだけ早く完成させたいです。
――分かりました。では最後に、お二人の、ぜひ一度は聴いて欲しいという曲をあげてください。あくまでも現時点でということで。
タタ
真実一路、走ろうチャチャチャ、オーロラ、この3曲でいきますか。どれもいいと思うよ、ぜひ聴いてみてよ。
Doc
オーロラ、ふるさと、おやすみぼうや、この3つですね。それにもう一曲加えさせてもらって、二十年、これもオススメです。
《インタビューを終えて》
俳句のはの字もでてこなかったけど、このお二人、れっきとした花火句会のメンバーで、俳号は太々と独太。それで今回のインタビューとなった訳です。みさちーた(これも花火句会のメンバー)もまじえての、約2時間のインタビュー。お話は面白かったんですが、話題があちらに飛びこちらに飛びで収拾不能状態、インタビュアーとしての能力不足を感じさせられました。あと一時間は欲しかったという印象。ではありますが、日本では少ないキューバラテン音楽のデュオ「ドクキゼオス」、その活動の一端でも伝われば幸いです。インタビューにお応えいただき、有難うございました。
(2016.10.8 藻六)
伝言板
「花火句会」「深海」合同句会のお知らせ
次回の句会は「花火句会」「深海」の合同です。それぞれの俳句の世界を拡げるよい機会、どんな句に出会えるか楽しみです。
奮ってご参加ください。詳細は後記の《句会の予定》をご覧ください。
月刊花火句会 これからの刊行予定
★11月19日:2016年11月号
『11月定例句会(11月12日)報告』
★11月29日:2016年11月増刊号
『月刊花火句会番外編』
第十一回 深井沓九郎
句会の予定
【日時】 2016年11月12日(土) 18:00~
【会場】 金山アカデミーセンター4F
【兼題】 なし。当季雑詠5句を前もって用意すること。
※今回は冬の句となります。
投句の受付
◆投句料は不要、投句される方は、メールにてお願いいたします。
◆作者名は本名でも俳号でもかまいません。
◆投句数は5句以内でお願いいたします。
◆締切りは11月10日(木)とさせていただきます。
◆投句いただいた作品の内、句会での入点句は、次回のブログにて
発表させていただきます。
◆受付メールアドレス:haikuhanabikukai-aichi@yahoo.co.jp