花火句会 自選三十句
第3回 御酒一筋と本田柑子の巻
其の五 御酒一筋
2014年秋。御酒一筋、ざくっと選んだ30句&講釈。
花火句会10週年おめでとう。ありがとう。この10年、格段に上達した!といえば俳句のことかと思うが、そうではない。では、なにか? それは…。早速、自選30句へ。どうぞ〜。
●案山子かと思えば農夫こっち来る
精巧に作られている案山子ではない。むしろ、その逆。故に、貧相な体躯に、粗末な野良着をまとう農夫だ。その案山子、いや農夫が動いて、こっちへ来るというのが我ながら秀逸。
●目に見えぬ風が見えたり麦の波
数年前くらいから麦を栽培している。収穫したものをパンに入れて「自家製麦使用」のパンを商おうって魂胆だ。連れ合いのパン食堂も鼻たかだかってわけよ。まてよ、オレは体よく使われてるだけか…?
●地を這うも生きる術なり毛虫なり
文法的にいかが?という疑問を呈する向きあったが、「毛虫なり」で正しいと思う。てっぺんで待ち合わせする毛虫もいいが、やはり地を這う毛虫でありたいと思う。誰です?「あんた毛虫か?」といらんこと言うヒト!?
●寒風にひび割れまいかつむの皿
いつの頃からか帽子が手放せない。それも夏と冬。当然夏は日よけ、冬は寒さよけだわ。そんだけ薄まってきたわけだわね。そうやって自衛しているにも関わらず、この冬の風ってえヤツは容赦がねえ。
●居眠りの犬ピクともせず梅の下
桜の木の下には死霊が棲む…だったっけ、たしか坂口安吾、それとも他の人? で、句は梅の木だ。長い冬が終わりに近づくと梅の花が咲き始める。梅の季題は春かもしれんが、実感としては冬。でも、近づく春の気配を感じながら老犬は眠る。
●重なりてなお重なりて雪の在る
雪は降る、あなたは来ない〜。誰を待つやら、待たすやら。雪の降るのをぼんやり見ていたら、どんどんどんどん雪はつもり、降った雪の上にまた重なっていくんだなという、あたり前のことに気がついたという一句。誰です?「寒ぅないんか?」と突っ込み入れるヒト!?
●コップ酒干して出かける春の宴
景気づけの一杯!なんてえことを、左党の方では言うようですが、まさにその面目躍如。これからいっぺぇ(一杯)やろうって時に、コップ酒飲んでいくのかい?いいじゃねえか、飲ましておやりよ、好きなんだから。アルコール分解酵素の少ない方々、御免ちゃい。
●餅つきや出たとこ勝負の嬶がいる
年末のせわしない時にやる餅つきは、楽しい。しかし実際に餅を仕上げるまでの苦労は大変なものがある。前日からもち米を水に浸けたり、水から上げたり、焚き火の薪や釜を用意したり、杵や臼も使えるように準備、もちろん来客向けの用意も必要etc、ああ、もう今年はやらんとこうかしら…。家内に出たとこ勝負のヒトがみえるのはこころ強い限りですね。
●通い道秋は誰もがひとりなり
確かマスダが特選にとってくれたんだっけ。感謝の意味を込めて、通い道秋もマスダはひとりなり。おいおい。それじゃってんで、通い道秋はマスダもひとりなり。ってことは、通い道秋は美味いね酒一筋、ってか〜。これ、意味わからんだろうなあ。 わしも。
●栗断ちてみなぎるものを取り出だし
イガイガに守られ、なお厚い皮に守られている栗の実。割るのだって容易じゃありません。栗を割るにはナイフでぶすっと、あるいは歯で噛み噛みして、そののち手で開いたり。そうしてようやく口にできる栗の実質。みなぎるものをいただいている感謝であり実感。
●南京の雌花黙して朽ちにけり
●ひまわりの立ち話する幼稚園
●かっくんと首を折ったりねぎ坊主
●青葉見てぎゅっと目を閉ず目の滋養
●古新聞ぐいと縛りて北開く
●すいと来てすすいと去りぬギンヤンマ
●百年を百代生きて来た南瓜
●蜥蜴横切って只今気温上昇中
●父といてただ一面の春霞
●ご法度の裏街道にも春爛漫
いろいろなご法度があろうかと思うが、この場合は「どぶろく」の密造。毎年、冬の終わり頃に上質の米麹が手に入るので、どぶろく造りに余念がない。作り方は簡単。あらかじめ水を冷やしておき、炊いたご飯と混ぜる。程よく温度が下がったところで、こうじを投入。あとは毎日かき混ぜながら味見。これがまた、ん〜まいんだわあ。
●春の闇コップの中の水平線
♪ ボトルの中の水平線から行方しれずの船が出るよ〜(憂歌団『ウィスキームード』)と作詞したのは、はや30年、いや、それ以上前。ボトルの中にしろコップの中にしろ水平線という言葉には、無限の広がりがある。というより未知なる世界への憧憬がある、と思うのはわたしだけ?
●倒木のうろに谺す百千鳥
この句は豊橋のなんとか湿原(確かイモウ…)に吟行に出かけた折の句。おたまじゃくしが群れをなして泳いでいる清流に見入った。その一方で、うっすらと苔むした倒木にも目が行った。遠くで鳥たちの鳴き声が聞こえた。倒木にうろがあったのか、なかったのか?うろ覚え…なんちゃって。
●ぬか床を揺り起こしたる朝曇
ぬか漬け(ぬか床作り&管理)が毎年の恒例になって久しい。ぬか床は「おばあちゃんからのお下がりで」なんて向きもあるようだが、こちとらは毎年更新する。更新はするが名前はおなじ「よしこちゃん」。大丈夫かぁ? とご心配は無用。今朝も、せっせとかき混ぜている。
●酔っていなければならんと蝉のなく
ランボーだったかボードレールだったか、酔っていなければならん! と力説されたらしいが、小生も同感。ていうか、そのまんま。で、今に至る。そんなに変わらないのである。そんなに変わったら気持ち悪いのである。だよね。お疑いの向きは、蝉に尋ねてみるのがよかろー。
●水仙八つウィーン少年合唱団
水仙の清楚な姿を合唱団の澄んだ響きで表現した句。まったく人気がなかったが、唯一、小麦氏には高い評価をいただいた。諸氏も俳句の持つ❝音の響き❞という点に、いささかでもご留意いただけたらと…みたいな偉っそうなことも、たまには言ってみたくなれへん? 言わしてちょ。
●立ち漕ぎの自転車少年天高し
●秋凉し凹んだ水筒携えて
●元旦や殿は御酒にて高鼾
お正月の正しい過ごし方を提案した一句。季節の酒肴、飲みなれた酒。あとは気にせず、高鼾。明日はどっかへ行っちゃったのである。
●街道の標となりし冬木立
●鈍色の運河に日差し冬立ちぬ
長々とお読みいただいた方々に深く感謝申し上げる。
其の六 本田柑子
花火句会へ参加したのは2012年1月からでした。
その時初めて点をいただいたのは、
1 夕ぐれにからだをつつむ寒さかな
でした。
この句に対し勝行先生から、「夕ぐれに」を「夕ぐれて」に訂正していただきました。以下同文
新年
2 初声や雨戸繰る音遠慮がち
この句には3席をいただきました。
3 初刷りや今朝の訪れ音もなく
4 起きぬけに灯油入れたる二日かな
この句には6点いただきました。
春
5 さえずりのにわかに起きし路地の朝
「起きし」を「起こり」に訂正
6 あい和するギターの音や春の宵
7 海苔そだや鈴鹿の風に波立ちて
「波立ちて」を「波立てり」に訂正
8 春めくや二人黙して畑仕事
この句は5点をいただきました。
9 寒明や煮物の匂う台所
10 春の夜やジェット機の音遠ざかる
11 春分や濃いめにいれし朝のお茶
「春分や」を「春寒や」に訂正
12 春風や車内にみつるシンフォニー
夏
13 冷麦や円高債務じっと聴き
先生よりこの句に対し、「いはゆる時事的なものは一過性に終わることが多く、時を超えて共感をえることは難しいと評価をいただきました。
また、点が入らない時ほど自分の俳句について考える良い機会だとの言葉をいただきました。
14 夏帽子友遠くより来たりけり
この句1席をいただき、この時トップ賞をいただきました。
15 窓開けて走る車やサングラス
16 遠雷や回り道する水たまり
「遠雷や」を「白雨あり」に訂正
17 蚊遣火や夕暮れ時の畑仕事
この句は3点いただきました。
18 夏雲や乗る人もなくバスは去り
この句は3点いただきました。
秋
19 虫の音やヒゲそりの手暫し止め
「虫の音や」を「虫の音に」に訂正、「や」では切れてしまうとの事。
20 弦月や家路をたどる靴の音
21 冗談を云いつつ帰る秋夕焼
22 こおろぎや音なく進む置時計
この句は1席をいただきました。
23 秋の夜や早や灯かり消す町工場
この句3点いただきましたが「秋の夜や」を「秋の暮」に訂正されました。
24 行く秋や夜道に浮かぶ信号機
冬
25 家家は白く静まり月冴える
26 月冴えり路地に靴音遠ざかる
「月冴えり」を「月冴える」に訂正
27 たそがれやねぐらへ急ぐ寒雀
「たそがれや」を「たそがれて」に訂正
28 あかぎれや吹かれ飛びそな洗いもの
29 柚子風呂や軒先たたく雨の音
30 着ぶくれや食事のあとの水しごと
「着ぶくれや」を「着ぶくれて」に訂正
以上2年8カ月の作品30句です。
月刊花火句会 これからの刊行予定
★10月18日:2014年10月号
『10月定例句会(10月11日)報告』
★10月30日:2014年10月増刊号
『花火句会 自選三十句』
第4回――増田智昭と山田夏子の巻
句会の予定
【日 時】 2014年10月11日(土) 18:00~
【会 場】 金山アカデミーセンター4F
【兼 題】 『案山子』を含む当季雑詠5句
◆投句料は不要です。
投句される方は、メールにてお願いいたします。
◆作者名は本名でも俳号でもかまいません。
◆投句数は5句以内でお願いいたします。
◆締切りは10月9日(木)とさせていただきます。
◆投句いただいた作品の内、句会での入点句は、
次回のブログにて発表させていただきます。