月刊花火句会

花火句会は2004年夏、花火シーズンの真っ只中で発足しました。 集まったのは、当時40代から60代の10名余り、全員がそれまで俳句なんぞ作ったことがないというど素人ばかり、それでも俳人山口勝行氏の指導を得て、月1回の句会、年1~2回の吟行を行っております。 句会は、参加者が事前に用意した兼題1句を含む当季雑詠5句を提出、全員で選句します。 選句された句は、入点句として、次回の会報で発表されます。 会員による選句とは別に、山口勝行氏選の優秀句(1、2句)は、山口賞となります。 句会後には、自由参加で懇親会もあり、当日の会員の句を褒めたりけなしたり、まさに議論百出です。

2012年01月

【日  時】  2012年1月28日(土)
【会  場】  こどもNPOピンポンハウス
【出席者】  勝行先生、小麦、沓九郎、仁誠、一筋、増田、、藻六、
         本田、按庵、山田、上田(以上11名)
【投句者】  参茶、U太、木上(以上3名)
【兼  題】  「初笑」を含む当季雑詠5句
 
今年最初の句会。前回の増田に続き、山田さん、上田さんの2女史、有松在住の本田氏が新メンバーとして参加、新春にふさわしい賑やかで、華やいだ句会となりました。
新投句者木上さん(女性らしい)も加わって、選句はもう大変。得点争いは熾烈を極めました。果たしてその激戦を制したのは? その結果は次に見ていただくとして、選句の大切さと選句能力の無さを痛感させられた次第。そこへ勝行先生からすかさず喝、「選句もまた句なり!」。そんなん言われてもなぁ、こちとら句を作るのに手一杯、選句なんて、ようせん。
 
飲み会になったら、参茶が鰤大根ぎっしりの大鍋をさげて参入、なんでも母上のお手前とか。味がしみ込んで実に美味、全員有難くいただきました、深謝。
 
沓九郎が熟成三年の古酒を持参、日本酒なんだけど少し紹興酒に似た変わった味、三年寝かせるとこうなるのかぁとこれも美味しく飲ませていただきました、感謝。
 
あれっ、今頃気が付いたけど、増田以降の新メンバーの名前、全員『田』だ。う~ん、こりゃどうしたこと田、不思議田、驚い田、こんなこともあるん田なぁ。
 
一席 
街道の標(しるべ)となりし冬木立/一筋
かざす手の生業(たつき)とりどり焚火かな/藻六
 
三席 
さいころの六ばかり出る初笑/U太
 
 
 今月の入点句  
 
5点句
もの忘れ指摘しあって初笑/一筋
 
4点句
長幼の序に従ひて炉火囲む/藻六
 
3点句
壁の染み隠せる高さや初暦/仁誠
着ぶくれてこそしっくりと屋台酒/小麦
雪積もりポストの口が無口なり/参茶
大歳の旗のみ揺れる漁港かな/按庵
 
2点句
さやうなら言うためにだけ冬銀河/U太
手袋と手袋の手のすぐ離れ/U太
目薬の頬に伝へる霜夜かな/U太
冬晴れて門前に買ふ鳩の餌/沓九郎
はしゃぎ来る孫見て厳父初笑/沓九郎
嬰児(みどりご)の黒目がちなる初笑/小麦
初写真遺影の父も加わりて/小麦
春着丈伸びて少女となりにけり/仁誠
青い眼の露店冷やかし初詣/仁誠
きっかけは女房の寝言初笑/一筋
本年も半月過ぎたか小豆粥/増田
雪だるま朝日をあびてふくわらい/上田
テーマパーク閑散として二日かな/按庵
幽閉の咎人(とがにん)かくや雪ごもり/藻六
 
1点句
観劇の惚(ほう)けを宥(なだ)め寒灯(かんともし)/勝行
焚火して帰船を待てる漁師妻/勝行
一ッ寸の雪に乱るる都心かな/勝行
幸せの全きカタチ寒卵/小麦
前向いて後ろを向いて日向ぼこ/小麦
初刷りを受け取りこの身引き締まる/増田
去年今年湯豆腐つつき笑顔咲く/増田
終電のにぎわい着ぶくれ酒の息/一筋
北風の気まま眺むる道祖神/一筋
おふくろのブリ大根よ季語またげ/参茶
夕ぐれにからだをつつむ寒さかな/本田
復興の兆し見えつつ初笑/木上
 
 
山口賞
街道の標(しるべ)となりし冬木立/一筋
長幼の序に従ひて炉火囲む/藻六
 
 
山口勝行評
新しい方々、ようこそ。自然が折にふれ人間に呼びかけている、それに応えるのが俳句です。季語はその、応えていくための大切なキーワード。俳句を始める以上、最低一年は続けてみて、春夏秋冬正月、この日本の5季の季語を、ひととおり知ることが大切です。
さて、今回は句の数が多いので、少し駆け足で講評します。
季語の「初笑」、動詞の時は「初笑い」、名詞は「初笑」です。来月の兼題『下萌』も同様ですので、注意してください。
正月というので初のつく言葉が多く見られました。ただ「初写真」「初刷」は季語として認められていますが、山田の「初滑り」はスキーシーズン到来の初滑りとも解釈されるので、正月の季語ではありません。季重なりも散見されました。「雪だるま朝日をあびてふくわらい(上田)」の(雪だるま)と(ふくわらい)、「初夢や三日もたてば忘れ酒(参茶)」の(初夢)と(三日)、「去年今年湯豆腐つつき笑顔咲く(増田)」の(去年今年)と(湯豆腐)、季重なりが全て駄目とはいえませんが要注意です。ただ「おふくろのブリ大根よ季語またげ(参茶)」の(ブリ大根)は固有名詞ですから、季重なりではありません。助詞の使い方にも気を配ってください。本田の(夕ぐれに)は(夕ぐれて)、U太の(頬に伝へる)は(頬に伝はる)、木上の(兆し見えつつ)は(兆しの見えて)。仁誠の「壁の染み隠せる高さや初暦」の句、染みの高さと初暦の長さを詠みたかったとは思うのですが、「壁の染み隠す高さに初暦」にと添削しました。長い短いにかかわらず、暦は動かせますから。小麦の「前向いて後ろを向いて日向ぼこ」は(日向ぼこ)を(大焚火)に。日向ぼこは体を動かさないと思うので。沓九郎の「はしゃぎ来る孫見て厳父初笑」、(厳父)を孫から見ての(爺の)にと置き代えました。厳父が作者の父なのか、作者自身が厳父なのか迷ったので。藻六の「かざす手の生業(たつき)とりどり焚火かな」は、「かざす手の生活(くらし)とりどりなる焚火」に。生業は(なりわい)と読むのが一般的ですし、この句の場合体言止めの方が余韻が強いと思われるので。わたくしも点を入れた按庵の「大歳の旗のみ揺れる漁港かな」、(揺れる)を(揺るる)と添削しました。いずれの場合も、口の中で繰り返してみてください、違いが分かるはずです。参茶の「雪積もりポストの口が無口なり」の句、(口が無口)と、口、口と続くのが気になりました。推敲が必要です。
山口賞に選んだ、一筋の「冬木立」と藻六の「長幼の序」の二句、光景と家族それぞれの面から、どちらにも日本の原風景を見るような趣きがあり、懐かしさが感じられた。
 
 
 句会を終えてひと言 
 
今日はやったぜ! と思いきや、二席だとぉ~。と思いきや、藻六の集計ミスで一席同着だとぉ~、どないなっとるねん。この人、火にかけた銀杏を忘れて黒焦げにするわ、最近おかしいし、ボケてんじゃないの、要注意、みなさん気をつけましょう。同着とはいえ一席は一席、その上、推敲に推敲を重ねてきた「街道の標となりし冬木立」で山口賞も。いやぁ、オイラ、感激! 特選にしたのは参茶の「雪積もりポストの口が無口なり」、この句、ポストを人間の姿に重ね合わせたとこが愉快。「北風の気まま眺むる道祖神」が今日の自信句。真冬の冷たい風も、こんな見方をすると、楽しい、かな?(一筋)
 
新しい方がみえて、多くの句から選ぶのにちょっととまどいました。けど、嬉しいとまどいです。U太の「さいころの六ばかり出る初笑」を特選に。この句、説明的なところが皆無で、ひたすら感性に訴えてくる、そこが気に入りました。「かまぼこを入れるの忘れ三ヶ日」わたしのこの句に誰れも点を入れてくれませんでしたが、いいんです、今年もドジなスタートで。気楽にいこ、そう思っとります。(按庵)
 
初めての句会で慌しかったが、いろんな句が出されて、入門書とは一味違ってよいと思った。勝行先生の指導も、直接教えていただけるので為になりました。私は生活を詠んだ句が好きですので、藻六の「かざす手の生業とりどり焚火かな」に生活者の匂いを感じ、特選にしました。私の「初もうでひいたみくじにほほゆるめ」、大吉を喜ぶ、これもまた初笑の一つということで作った句です。(本田)
 
新年はじめての句会、素人ながら秀句が多いと思った。年末年始の晴れやかさの影で不況や震災など、必ずしも「晴れやかならざる」世相もあり、こうした明暗共に詠み込めるのが俳句の魅力ですね。U太の「さやうなら言うためにだけ冬銀河」に点を入れたけど、どんな「さやうなら」だったのか、興味津々、あれこれ想像させます。新聞を生業としているので、「初刷りを受け取りこの身引き締まる」が自信作、元旦号をしっかりと届けてくれた配達さんに感謝! 今年も仕事がんばります。(増田)
 
高度すぎるのか、理解できない句が多々あったので、自分なりに意味が分かった句を選句しました。按庵の「テーマパーク閑散として二日かな」、これ、自分の経験した光景そのものだったので特選に。時間がなくて苦し紛れに出した句、「白銀の風をまといて初滑り」、「白銀」も「初滑り」も歳時記にはないということです。まずは季語の勉強ですよね。(山田)
 
花火句会3年目、去年からずっと下り坂、ここらで足に力を入れて、登りに転じたい。新しい人も来て、もっと頑張らねば。藻六の「長幼の序に従ひて炉火囲む」、長幼の序という、聞かなくなって久しい、我家でも縁のない言葉に会えた。正月早々こんな風景に出会えれば、1年気持ちよく過ごせそう。俳句暦で壁の染みを隠し、ちょっと申し訳ないとも思ったが、まぁいいかと詠んだのが「壁の染み隠せる高さや初暦」。この句、3点どまりだったけど、みんな、もっと俳句暦買おうよ、トイレットペーパーにはならんけど、何かと役に立つよ。(仁誠)
 
初参加で、句づくりにすごく苦労しました。それでも、自信句とまでは言いませんが、「雪だるま朝日をあびてふくわらい」に点が入ったので、とても嬉しかった。特選句は一筋の「もの忘れ指摘しあって初笑」。まだその年齢? ではありませんが、すごく気持ちが分かる気がしたので(上田)
 
本日は5句全部に点をもらいました、エッヘン。特選にしたのは、またまたU太の「さいころの六ばかり出る初笑」。六ばかりというのはあんまり無いとは思うけど、それと初笑の組み合わせが面白い。あたしゃの「着ぶくれてこそしっくりと屋台酒」、これ、しがないおじさん達が屋台酒を飲んでいた風景。この句に藻六が特選を入れてくれた、やっぱりな、しがない同士で通じ合うんだわさ。(小麦)
 
新鮮ですねぇ、新しい人が三人もいて。みなさん、頑張って続けてほしい。今回の特選はほのぼのとした風景を感じて、一筋の「もの忘れ指摘しあって初笑」に。自信作は「冬晴れて門前に買ふ鳩の餌」、この句、京都の東本願寺で詠んだもの。点はあまり入らなかったけど、勝行先生が選んでくれたので、よしとします。(沓九郎)
 
一席同着と山口賞、今年最初の句会は絶好のスタート。今年は辰年、どうせ龍頭蛇尾だって? フン、そういう憎まれ口は勝ってから言ってほしい。あっしの場合は、始めよければ終わりよし、この勢いで連戦連勝だぁ。勝行先生が、俳句は勝ち負けじゃない、むしろ点が入らない方が自分の俳句について深く考察できて良いと仰るけど、やっぱ点が入ると嬉しいし~ィ、入らないとガックリだし~ィ。特選にしたのは小麦の「着ぶくれてこそしっくりと屋台酒」。そうなんです、これぞおじさんの美学、着ぶくれてなきゃアカンのです、この場合。山口賞をもらった「長幼の序に従ひて炉火囲む」、30年前くらいに泊まった冬の合掌村、囲炉裏の特等席にその家の長老が鎮座していました。この句について按庵が、長幼の序をいちばん弁えない奴がよく言うよ、と突っ込んできましたが、ま、その反省も込めた一句でして…。集計ミスと銀杏黒焦げ焼死事件? えっ、そんなことあったの。(藻六)
 
 
 次回の予定 
 
【日時】2012年2月11日(土) PM6:00~
【会場】こどもNPOピンポンハウス(名古屋市緑区作の山町)
【兼題】『下萌(したもえ)』を含む当季雑詠5句
 
  飛込み参加大歓迎!! 
 
◆参加ご希望の方は、兼題1句を含む当季雑詠5句をご用意ください。
◆事前のご連絡は不要です、当日会場に直接お越しください。
◆参加料は1000円です。
 
 
 投句の受付 
 
◆投句料は不要、投句される方は、メールにてお願いいたします。
◆作者名は本名でも俳号でもかまいません。
◆投句数は5句以内でお願いいたします。
◆締切りは2月9日(木)とさせていただきます。
◆投句いただいた作品の内、句会での入点句は、次回のブログにて発表させて
  いただきます。
◆受付メールアドレス:haikuhanabikukai-aichi@yahoo.co.jp
 

 
       HANABIリレーインタビュー その① 
 
        『深井沓九郎に聞く』 (ききて:原藻六)
 
 頭の片隅、全体の3%くらいの部分が俳句脳になっていて、 
 そこがいつでも俳句を考えてる(沓九郎)。            
 
藻六「沓九郎の俳句って、スタートはいつ?」
沓九郎「それは句会を発足させるから参加しませんかと、小麦に誘われた時」
六「すると2004年の夏、今から7年半前だ」
九「そう、だからわたしの俳句歴と花火句会の歩みは完全にオーバーラップしてる。ただ、漠然とだけど、句会に入る前から興味があって、俳句ってよさそうだ、いつか作ってみたいな、そんな気持ちはあった」
六「へぇ~、それはまたどうして?」
九「俳句って五七五と短いけど、なんか奥が深そうで、世界が拡がるというか、そんなイメージ。それに短いというのは、言い方を変えれば簡潔、そのスッキリ感に魅力を感じていた、それでですよ」
六「じゃ誰れかの句集を読んでいたとか?」
九「それはないですね、あくまでも漠然としたイメージ。そこへ誘いがあったんで、ならやってみるか、そんなとこです」
六「そうなんだ、じゃ最初に作った句って、憶えてる?」
九「五句作ってこい、そう言われたんだと思うけど、その時の記録がなくて…。ただ、最初の句会を含め、2004年の夏に詠んだ句の内の三つは今でも憶えてる」
篝火の舳先だけ見ゆ鵜飼船
ケータイの先で花火の弾けをり
汗ふきつ母眼で探すメダリスト
六「それが初期の作品という訳だ」
九「そう、どうです、この句いいでしょ?」
六「そのあたりは、今日のテーマじゃないんで…。それにこちらはインタビュアー、訊ねるだけ、そちらからの質問にはノーコメント(笑)」
九「あ、そ、実は当時勤め先の岐阜支社に赴任してたんで鵜飼とか花火大会に行った時の句。メダリストの方は2004年がオリンピックの年だったんで」
六「成程ね。それでどう、振り返って、今ならこう詠むのにとか、こう直したいとか」
九「それはない、これはこれでパーフェクト、我ながらいい句だ、そう思うでしょ?」
六「ノーコメント!(笑)」
九「ハハ、本当はね、この三つはわたしの俳句スタートの記念碑的な句だから、これはこれで直さずにいこう、そう決めてる」
六「そういうことね、ところで、深井沓九郎(ふかいくつくろう)という俳号は、深い句を作ろう、から来てると聞いたけど、それは本当?」
九「そう、本当」
六「なら、その深い句ってどんなの?」
九「う~ん、難しいなぁ、どう表現すりゃいいのか。まずはその、いい句でなきゃ駄目だよね」
六「そのいい句が、そもそも難しい」
九「だよね、上手い句、面白い句、意外性に富んだ句、分かりやすい句、難解な句、いろいろある。わたしの場合は、その句を読んだ瞬間、パッと情景が眼に浮かぶ、それも鮮やかに浮かぶ、そんな句。例えば高浜虚子の『流れ行く大根の葉の早さかな』、これ、葉っぱの緑だけじゃなく、冬の冷たい大気とか清流、大根を洗う農婦の姿までが脳裏にイメージされる。わたしにも、いつの日かこんな句が作れたらいいなぁと思うんだけど」
六「じゃその虚子と大根の句が、深い句のお手本?」
九「もちろんそう、それともう一つあって、それは人間探求派といわれる俳人」
六「人間探求派ねぇ」
九「『降る雪や明治は遠くなりにけり』の中村草田男、『路次照れり葡萄の種を吐きて恥づ』の石田波郷、『鳥けもの朝はしづかに落葉ふる』の加藤楸邨。この人達の句には自然の写生だけじゃなくて人間の内面、意識とか感情が色濃く映し出されてる、そうしたものにも引かれるんだ」
六「自然と人間ねぇ、なんか両極的だな」
九「自然と人間って、決して対立だけじゃないと思うけど…。要は、句を読んでいただいた方の、心の中に沁み渡っていくような句ですかね」
六「すると自然の実写に人間の内面性というか、そんなものがプラスされて、心に沁みる句、それが深い句という訳ね」
九「そう。ただ、心に沁みるといっても、それも人により様々だから、そこが難しい」
 
 
 沓九郎流『俳句のつくり方』    
 
六「句のつくり方、教えてくれる?」
九「特別な物はないけど…。ただ、今から思えば、初めの頃は句会は迫ってるし、宿題の兼題もあるしで、作らなきゃという義務感のようなものが先行してた」
六「今は?」
九「頭の中に次第に俳句脳みたいなものが出来て、そこではいつも俳句を考えてる、そんな感じ。日常生活の中では、そんなにドラマチックなことでなくても、いろいろ起こる訳でしょ、その刺激に俳句脳が反応する、これは句になりそうだぞって」
六「う~ん、俳句脳ねぇ。どんな刺激に反応するんですかね、それ」
九「それは森羅万象においてあっという驚き、意外性、美しいものへの感動、ちょっとしたヒラメキ…。わたしの場合それをその都度ケータイのメモ欄に記入しておくんです、ほら、こんな風に(ケータイを見せる)」
六「成程ねぇ、あれ? もう五七五になってますね」
九「なってるのもあれば、普通の文章、単語だけというのもある。五七五にしたって即製だから、季語なしとか、季重なり、字余り、字足らず、いろいろです。これがベースになって、あとから手を加えて何とか句にする」
六「紙じゃなくてケータイか。そのひとつの句にまとめ上げていく過程だけど、何に苦労するの?」
九「やっぱり言葉、どういう言葉を使うか、取捨選択が難しい。昨年のことだけど、わたし句会に、
流灯を水におく子の無言なり
という句を出したんだけど、勝行先生から、『流灯を河に置く子の無口なり』と添削された。水が河に、おくが置くに、無言が無口に変わってる。これって、どっちがいいんですかね」
六「ノーコメント!」
九「ハハ、おくは置くがいいけど、河か水か、無言か無口か、悩むなぁ、実は今でも迷ってる。他に、自分で気に入ってる句だけど、
平凡な日こそ夕日の美しき
というのがあって、この句の原句は『平凡な日こそ夕日の美しさ』だった。それを美しきに添削してもらって、わたしもこれでよくなったと思うんだ」
六「ならいいじゃないの」
九「けどそのあと、ふと、『平凡な日なれど夕日の美しき』の方がいいんじゃないかという気になって、これも今でも迷ってる。藻六さん、日こそと日なれど、どっちがいい?」
六「ノーコメント!(笑)」
九「言葉の選択って悩むなぁ。だけどそういう時、言語に対する知識不足を痛感させられてイヤになる、語彙も貧しいし、俳句用語も知らないし。草木や鳥の名前なんかももっと勉強しないとと思うんだけど」
六「季語もそうだよね」
九「そうそう、それ分かってないと話にならない。前に、
二駅を歩く通勤今朝の秋
という句を作ったんだけど、これも『今朝の秋』という季語を理解していないと駄目だよな、秋の朝と今朝の秋とは違うという」
六「立秋の秋ね、朝のひとときだけ秋めいて、日中はまだ残暑だという」
九「そう、それが分かってないと、よし今日は歩くかという気持が伝わらない。この前歳時記を見てたんだけど、知らないのがいっぱいある。辰年なんで竜の項開いたら、(竜の玉)(竜の髯の実)(蛇の髯の実)なんて季語があった」
六「何よ、それ」
九「こういうのも知ってるのと知らないのでは大違い、そもそもが他人の句を理解できない。これも勉強だよね」
 
 
 花火句会のこと、あれこれ    
 
六「で、どう? 7年半俳句やってきて、よかったと思ってる?」
九「そりゃもう。苦労も多いけど、楽しみの方がずっと多い。いろいろあるけど、非日常の世界に遊ぶってことかな、最大の楽しみは」
六「非日常ねぇ」
九「題材がいくら日常的なことあれこれだとしても、それを見つめる視点が変わったり、さらにそれを一つの句に仕上げる作業が日常生活とは切り離されてる。だからこれまでの世界がより拡がったという感じ。脳にしても、これまで使わなかった部分が働いているような、そんな気がする。当然、言葉への対し方も変わったし、日本語の豊かさも少しは分かってきた」
六「句会についてはどう?」
九「句づくりは自己表現の一つで、当然他人に読んでほしい、批評してほしいという気はある。その発表の場だけど、わたしは他人の句に会うのも楽しみなんだよね。自分にはない感覚とか視点とか、気づきとか。それは一人では味わえない。それにちょっと句からはそれるけど、句会の仲間との付き合い、句会後の飲み会にしたって、仕事仲間のそれとは全然違う。俳句というものを媒介にして、別の世界にもう一人の自分が生きている場所、それが句会かな」
六「花火句会のメンバーについてはどう?」
九「それは、みなさん個性的で魅力的な人ばかりと言っときます、ハハ」
六「ハハ、そうしか言い様がないよね。句会での選句だけど、どんな感じ?」
九「悩むよなぁ、選句は。まずは作者の目の付け所、同じものを見ていても、この作者ここを見たのかなぁというような。それから表現力、これは当たり前だよね。その他の要素モロモロがあって、時と場合によって違うけど、最後何かというと、いい句より好きな句ですかね。AとB、どちらも同じ水準だと仮定すると、選ぶのは好きな句の方」
六「すると同じイカでも、丸焼きよりも自分は刺身がいいという、あれね」
九「ま、そんなとこか、塩辛だけは苦手で受けつけないみたいな。だけど人間って面白いもので、この句は問題外と思うようなのに、誰れかが特選を入れたりするんだ」
六「そりゃありますよね、当然」
九「それはそれでいい、けどそういう時は、どういう理由でそれに点を入
れたか、よく聞くようにしてる。すると思いがけない発見があったりする。これも勉強になる」
六「沓九郎は誰れに点を入れることが多いの?」
九「それは記録してないから…。う~ん、小麦と仁誠、それに最近ではU太かなぁ。どっちにしても、最初は誰れの句かわからないんだから、唯の結果論」
六「そりゃそうだけど、沓九郎の好みがでるんだから。小麦、仁誠、U太か、あれ? 誰れかの名がないなぁ(笑)」
九「コメントするな!(笑)」
六「選ばれる側としてはどう?」
九「そりゃ選ばれれば嬉しい、特に勝行先生に選んでもらうとね。だから山口賞は毎回ほしいくらい。それと、メンバーみんな、なんだかんだいっても、それなりの読む力はあるという気がする」
六「うん?」
九「だっていい加減に作った句って、絶対といっていいほど点が入らない。一句足りなくて、句会へ行く道すがら作ったとか。やっぱり直す直さないは別にして、何度も読み直して時間をかける、コレ、必要だよね」
六「ところで句会に何か注文ある?」
九「注文じゃないけど、人間の心情を上手く詠み込んだ句に会いたい、そういう思いはあるな、これは自分を含んでのことだけど」
六「人間探求派ね」
九「景色は意外に早く忘れる、わたしたちの日常が自然とどんどん離れてるし。そこいくと、心の動きは忘れない。それともう一つは、花火の人の句って、あまり社会情況とリンクした句がないこと。この前の句会で、
幸せな子ばかりでなき聖夜来る
というのをだしたけど、低い得点だった。これ、さっきでた『流灯を』の句と同じで、震災を意識した句だけど、こういう句は少ない。あれだけの大震災のあとだから、もっとだされていいと思うんだけど、これって独り善がりかなぁ」
六「そりゃ難しい問題だ、ノーコメント」
九「社会情況というのは日々変わるから、何年、何十年したら忘れられるということはあるよね。そしたら詠んだ句も通じなくなる。原爆忌みたいに季語になるようなものは別だけど。それでなかなか詠まれないのかもしれないけど」
六「だけど『流灯』も『幸せな子ども』の句も、特に震災ということでなくても、十分通用するいい句だと思う」
九「そういうコメントなら、どんどん言ってよ(笑)」
六「ハハ、じゃ紙面の都合もあるから、ここらで沓九郎の代表句を二つあげてもらって終わりとしますか」
九「あくまでも現時点ということね、自分はまだまだ進化の序の口だから。一つは前にだしたけど、
平凡な日こそ夕日の美しき
クリスマスソング聴き入るホームレス
この二句です」
六「では代表句がでたところで、今日はどうも有難うございました」
九「こちらこそ」
(了)
 次回は深井沓九郎が御酒一筋にインタビューします。

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