2022題字




一席 

僻村に家の数だけ鯉幟/仁誠


 

二席 

逸走の馬伸びやかに夏競馬/藻六


 

三席 

鯉のぼり鏡に流る理髪店/信史

 


 

( )内は点数 は特選句

 

山口勝行

満目の麦の秋なる麺どころ(3)

草笛を教はり僻地教師たり(1)

見事なる仕業(しわざ)に呆れ根切虫(1)

軒菖蒲葺く民宿に旅装解き(1)

御隠居は素袷(すあわせ)召して身の軽き

 

河村仁誠

僻村に家の数だけ鯉幟(5)

踏切板蹴つて両手に雲の峰(3)

草笛を教へ掃除を免れる(1)

眼鏡すぐズボンに拭ふ薄暑かな

夏痩も子規の健啖変はりなく

 

原藻六

逸走の馬伸びやかに夏競馬(3)

人嫌ひ山陰に咲く遅桜(2)

注射打つナースの腕の白さかな(2)

夜桜やナースコールに返事なく(1)

草笛のわんぱく少年得意顔

 

梶原信史

鯉のぼり鏡に流る理髪店(3)

草笛を吹けば輪唱下校の子(2)

水音をゆたかに里へ夏来る(1)

前へ前振り向かざるや毛虫這ふ(1)

花柄の妻のスカート更衣

 

御酒一筋

草笛に吹き込む息の青さかな(5)

口笛を吹けず草笛もまた無理

草笛を鳴らせることの出来る母

草笛も吹けるバーチャルリアリティー

筆先に燕を付けて遊ばせし

 

仲野カモメ

草笛や吹けず仕舞いで古希となる(3)

嫁の母母の日待てず逝きにけり(1)

草笛や忘れ去られしビル谷間

念願のシャツを羽織りて街薄暑

二年来書展案内風薫る

 

深井沓九郎

アロハ着て勤務メガネの公務員(2)

ラジオ置き笑って歌って草むしり(1)

梅雨晴れ間急に名乗りの晴れ男(1)

どうしても草笛鳴らず幼き日

犯人を知りて安堵の白夜かな

 

中谷U太

草笛や私の中にゐる私(2)

遠回りしてふるさとの夏野かな(1)

海知らず丸齧りする青林檎

永遠に「とは」とルビ振る合歓の花

「ありがとう」「ごめんね」蛍「さようなら」

 

高津按庵

草笛やさてさて今は昔なり(1)

知らぬまにピラカンサの花咲き朽ちる(1)

連休過ぎ部屋に破れた紙兜

草笛の三重奏きく峠小屋

緑陰に幼子二人手をとりて

 

加藤小麦

草笛や飲み込み早い転校生

手を振って草笛吹いてまた明日

草笛うまいねドッヂボールはなんだけど

草笛や月曜日から金曜日

動かざる大道芸人四月尽

 


 


〈特選〉

僻村に家の数だけ鯉幟/仁誠


集落挙げての重五を祝う慣わしが永々と続くことは誠に喜ばしいことである。

 

〈入選〉

草笛を吹けば輪唱下校の子/信史

鄙の子等の下校時に見る道草の睦まじい風景

花柄の妻のスカート更衣/信史

これは驚きだ、妻も案外まだまだいけそうだ。

水音をゆたかに里へ夏来る/信史

(水音を)を(水音も)に

豊かな水は暮らしの全てに活力をもたらす。

草笛に吹き込む息の青さかな/一筋

久し振りに吹く草笛、必死になって青色吐息

踏切板蹴つて両手に雲の峰/仁誠

雲の峰を掴まんばかりに跳箱を跳ねる。

草笛や飲み込み早い転校生/小麦

興味深さに意外と早く吹き方のコツを会得する転校生、これでやっと仲間になれた。

遠回りしてふるさとの夏野かな/U太

どうしても、この懐かしい夏野に寄って邂逅の思いに浸りたかった。

ラジオ置き笑って歌って草むしり/沓九郎

ラジオが独り居の寂しさを救ってくれる。

二年来書展案内風薫る/カモメ

コロナ禍による延期が解かれ久々の書道展。

 

〈添削句〉

人嫌ひ山陰に咲く遅桜/藻六

人避けて深山に咲ける遅桜

草笛を鳴らせることの出来る母/一筋

草笛を今も鳴らせる老母かな

前へ前振り向かざるや毛虫這ふ/信史

前へ前へと振り向かず毛虫這ふ

 

〈所感〉

今月は無季句が散見されたが、やはり気の抜けたサイダーの感がある。歳時記に無い季節の言葉を用いて挑戦してみることも悪くはないと思うが、「季寄せ」の意義を良くわきまえての応用であってほしい。新しい「季」の題材で秀句が生まれれば、やがて「季題」として認知されるかもしれない。




 

今月の仁誠5句選

梅雨晴れ間急に名乗りの晴れ男/沓九郎

草笛に吹き込む息の青さかな/一筋

嫁の母母の日待たず逝きにけり/カモメ

見事なる仕業に呆れ根切虫/山口勝行

(特選)

アロハ着て勤務メガネの公務員/沓九郎

 典型的なメガネを掛けて実直そうな公務員が如何にもとってつけたようなアロハ姿で窓口応対をしている。以前の勤務先に近い伊賀市では公務員が忍者姿で仕事をしていた。可笑しなもので見慣れてくると不思議に違和感を持たなくなる。作者もこの後数回窓口を尋ねればきっと何の違和感もなく感じるだろう。俳句はやはり新鮮さが命と感じた句です。

今月の仁誠自信句

踏切版蹴って両手に雲の峰

 夏の東京オリンピック陸上の再放送を見て久しぶりに走り幅跳びをしてみた。

 走り幅跳びの、走りは遅いながらもそこそこ走れたものの頭に描いていたジャンプは散々。踏切版を蹴った後暫く空を飛び雲の峰を掴むが如く両手を大きく振り上げた積りであったが見事な低空飛行で距離も出ず。年は隠せないそう感じたチャレンジの一句。

 今月藻六の投句はどうだったのかな、年相応の回復を祈念しています。

 

入選句

草笛を吹けば輪唱下校の子/信史

人嫌ひ山陰に咲く遅桜/藻六

ラジオ置き笑って歌って草むしり/沓九郎

僻村に家の数だけ鯉幟/仁誠

特選句

鯉のぼり鏡に流る理髪店/信史

特選理由

作句の情景の設定がユニークで惹かれた。

自信句

二年来書展案内風香る

本来毎年開催或いは参加し出展作品を観てもらいたい作者であろうがコロナ禍でままならない。なんとか漕ぎつけた気持ちが案内ハガキから伝わる。


 

小麦入選句

草笛を教へ掃除を免れる/仁誠

草笛や吹けず仕舞いで古希となる/カモメ

鯉のぼり鏡に流る理髪店/信史

逸走の馬伸びやかに夏競馬/藻六

●小麦特選句

踏切板蹴って両手に雲の峰/仁誠

●理由

どこまでも、跳躍して、雲の峰まで届くくらい。

腰痛のわたくしには、まぶしい若さです。

●自信句

手を振って草笛吹いてまた明日

言葉は交わさなくても、草笛吹いて、手を振れば、また明日がやってくる。世の中ややこしくなっても、小学生の世界は、まだこんな感じ、だといいな。

●ひとこと

5月なのに、曇ったり、雨降ったり、腰痛になったり、冴えない日々が続く小麦です。

みなさんは、お変わりなくお過ごしでしょうか。

藻六さん、よくなったかな。

私は、日ごろエラそうなこと言っていても、ちょっと体調が悪いだけで、すぐネガティブになるので、病気と共生して、淡々と暮らしている方々たちを本当に尊敬しますです。

 

<選句>

草笛を教わり僻地教師たり/山口勝行

草笛に吹き込む息の青さかな/一筋

水音をゆたかに里へ夏来る/信史

僻村に家の数だけ鯉幟/仁誠

<特選>

満目の麦の秋なる麺どころ/山口勝行

山口百恵の「いい日旅立ち」が聞こえてきそうな俳句ですね。

ほのぼのとした風景が広がりほっとします。

実は満目という言葉初めて知りました。勉強になります。

<自信句と背景>

梅雨晴れ間急に名乗りの晴れ男

雨の日が続く中、運よく一日だけ晴れた日のゴルフ。

得意げなこういう輩が必ず出現します。あっ、俺の事か。

<感想その他>

皆さんと随分お会いしていないので淋しい限りです。

藻六さんのご快復はそのごいかがでしょうか。

ぜひぼちぼちリアル句会で集まりたいものですね。

 

「五句選」

踏切板蹴つて両手に雲の峰/仁誠

僻村に家の数だけ鯉幟/仁誠

満目の麦の秋なる麺どころ/山口勝行

軒菖蒲葺く民宿に旅装解き/山口勝行

「特選句」

草笛に吹き込む息の青さかな/一筋

快晴の五月、草花の生い茂る草原を想起した。作者の胸一杯に空の青さと草原の青すら吸い込んで草笛を吹いている様は、まさに自然の中に身を置き、五感を通して生み出された掲句に敬服する。

「自信句」

前へ前振り向かざるや毛虫這ふ

 去年の五月、庭の松に毛虫が湧き針葉が食害された。急ぎ薬剤を散布したので松枯れの難は逃れた。よくよく見ればどの毛虫も振り返ることなく葉先に向かっている。短い生涯をひたすら前へ進んでいるように思われた。

 

按庵選

夜桜やナースコールに返事なく/藻六

草笛を吹けば輪唱下校の子/信史

遠回りしてふるさとの夏野かな/U太

僻村に家の数だけ鯉幟/仁誠

特選

逸走の馬伸びやかに夏競馬/藻六

逸走とはコースをはずれて走ること、実はのびやかではない。フェンスに当たって大けがをする馬もいる。本当は牧場などで、のびのびと走って欲しい!レースでの逸走にのびやかさを感じるのは、作者の動物愛護的願望とみた。それとも、逸走した馬から総流しして発狂したか?(だから私は自分の意志で走る競輪の方が好きだ。とはいえ、毎週、競馬もやるけどね)

自信句?

連休過ぎ部屋に破れた紙兜

上のしまりが悪く良い句とは思えないが(「孫帰り部屋に破れた紙兜」の方が良かったかも)ゴールデンウイークに孫を連れた子の帰省で賑やかだったが、嵐のように去っていった。静かになった我が家に破れた紙兜がぽつりと残っていた、ちょっとした寂寥を詠んだつもりです。

追伸、モロクさんより、2回ほど電話ありました。ちょっとかすれた声でしたが、しょうもない事をしゃべれて、よかったです。

 

特選

草笛や私の中にゐる私/U太

理由

草笛を吹ける人と吹けない自分。自我を認識した最初のエクスペリエンスだったかも知れない。

並選

草笛やさてさて今は昔なり/按庵

知らぬまにピラカンサの花咲き朽ちる/按庵

注射打つナースの腕の白さかな/藻六

前へ前振り向かざるや毛虫這ふ/信史

自信句 

草笛に吹き込む息の青さかな

感想

息の青さとは青春の息吹。分かるかな?わかんねえだろうな。草笛と言えば思い出すのが、「ふけないヨ。なんで音出るの???」。今もそのまま

 

【選句】

人嫌ひ山陰に咲く遅桜/藻六

注射打つナースの腕の白さかな/藻六

草笛に吹き込む息の青さかな/一筋

僻村に家の数だけ鯉幟/仁誠

●特選

草笛を吹けず仕舞いで古稀となる/カモメ

〈特選理由〉

 ぼくも草笛が吹けない。遊び仲間に吹く遊びがなかったからだ。同じ理由で麦笛も吹けない。俳句の作者が吹けない理由は、ぼくと同じ理由によるのではないか。

 人生は事実や現実によってつくられるものではない。夢と虚構によって形成される。夢と幻影の方が事実や現実よりも人の思いを豊かにするからであろう。

 草笛と古稀の取り合わせでつくられたこの句も、悔恨や悲しみを詠んだのではなく、夢と幻の歓びを謳ったものだと受け取ると、句意は一層奥深いものになるような気がする。

【自信句】

海知らず丸齧りする青林檎

 ぼくの生まれた飛騨には海がない。少年の頃、奥飛騨の叔父さんが土産にくれたりんごを齧ると、何故かまだ見ぬ海への憧れは、一層深まったものだ。海はただの未知への憧れの対象だっただけではなく、ぼくの将来への夢のシンボルだったのだろう。

 

選句はおこがましいのでやめておきます。

逸走の馬伸びやかに夏競馬

逸走馬というのは騎手を振り落としたり、勝手にコース外を走る馬のことで、失格となる。しかしその逸走馬、裸馬で走る姿は、実に伸び伸びしている。時には先頭でゴールを走り抜けることも。その時には観衆から拍手喝采です。



①ダイハチ沖縄ツアー

ダイハチまつりフライヤー_最終(コピー)


沖縄版



②霜月信二郎探偵小説選


霜月信二郎探偵小説選

『幻影城』より作家デビューを果たし、喜寿を迎えた今なお活発な創作活動を続ける霜月信二郎。デビュー作「炎の結晶」や代表作「密室のショパン」など、長らく作品集がまとめられる機会に恵まれなかったベテラン作家の傑作を収録した霜月文学の集大成! 巻末には書下ろしエッセイを収める。

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③これまで「テレ句会」としていましたが、今後は「メール句会」とさせていただきます。

オンラインで画面越しに対話するテレビ会議とは意味合いが違うためです。



 


【締切】 2022年6月11日(土)

【兼題】 『緑蔭』を含む当季雑詠5句

6月もメール句会となりました。奮ってご投句ください。

【宛先】 haiku_hanabikukai@yahoo.co.jp